視覚障害者の生活を支える盲導犬の課題

盲導犬の店内受け入れ拒否や視覚障害リハビリテーションの認知不足解消が課題

――視覚障害者にとって大切な盲導犬ですが、お店側からの受け入れ拒否もあると伺っています。

奥澤:そうですね。2023年に行った当協会の調査だと、「盲導犬の受け入れを拒否されたことがある」と回答した人が44パーセントいることが分かりました。その多くは飲食店で、次点で公共交通機関となっています。

コロナ禍に受け入れ拒否の割合は一時的に減りましたが、依然として多いのが現状です。

――受け入れ拒否にあってしまう要因はなんでしょうか?

奥澤:私たちは、多くの人が「身体障害者補助犬法(※)」を知らないこと、また特別な対応が必要なのではないかと不安になってしまうことが要因だと考えています。

協会にも問い合わせをいただくことがありますが、多くの場合「盲導犬は店内では足元で静かに待機します。安心して受け入れてください」とお伝えすると、ご理解いただけます。

盲導犬ユーザーからも、「お店から出るときには、店員さんから『本当にいい子ですね。また来てください』と言ってもらえた」という話を聞くことがあり、少しずつ理解は広まりつつあると思います。


お店や病院など不特定多数の人が利用する施設で、障害のある人のパートナーである補助犬の同伴受け入れを義務づける法律。補助犬を同伴する身体障害者は、補助犬の行動管理・衛生管理を行うことと、周囲に補助犬であるということが分かる掲示が義務づけられている


受け入れ拒否の割合はコロナ禍に20ポイントほど減ったものの再び増加。いまだ約半数の盲導犬ユーザーが受け入れ拒否を経験している。出典:障害を理由とする差別は解消されているのか? 盲導犬ユーザー受け入れ拒否の実態報告 | 日本盲導犬協会のプレスリリース(外部リンク)

――そのほか、日本盲導犬協会が課題と感じているところはありますか?

奥澤:視覚障害者の中には、「どうすれば盲導犬の申請ができるのかが分からない」という方も多くいらっしゃいます。

盲導犬の申請に限ったことではなく、協会には「身体障害者手帳の取得方法が分からない」「これから目が見えなくなっていく中で、どのような福祉サービスがあるのか知っておきたい」「そもそもどこに問い合わせたらいいのかが分からない」といったさまざまな相談が寄せられます。

そのような方に情報を届け、困り事の解消へ向けて対応をするため、当協会には視覚障害リハビリテーション(外部リンク)の専門部署があります。盲導犬歩行だけでなく、生活全般のリハビリテーション訓練も行いますが、場合によっては、ご本人のお住まいの地域にある関係機関をご紹介することもあります。

情報提供をすると「もっと早く知りたかった」と話す方が多く、視覚障害当事者に情報が行き届いていないことを痛感します。

どんな些細なことでも、気軽にご相談いただけるとうれしいです。

――盲導犬の施設のことは知っていても、そういった窓口があることは知りませんでした。盲導犬の受け入れ拒否やボランティア不足、視覚障害者への情報不足を解消するため、協会全体で取り組んでいることはありますか?

奥澤:現在、企業や行政、学校に向けてセミナーや講演などを行っています。近年は学校の教科書に盲導犬に関する内容が掲載されるようになったり、学校に訪問して実際に授業を行ったりする回数も増えています。2023年は年間で300校以上、オンラインの講習を合わせると450校ほど開催しました。

また、土日は大型商業施設でイベントを開き、盲導犬の役割を紹介するデモンストレーションや資料配布を行いながら、盲導犬や視覚障害者をより身近に感じていただけるように取り組んでいます。


盲導犬デモンストレーションの様子。画像提供:公益財団法人日本盲導犬協会

(広告の後にも続きます)

「手伝いましょうか?」の一声が、誰ひとり取り残さない社会につながる

――盲導犬への接し方が分からないという人もいるかと思います。接し方について教えてください。

奥澤:犬に接する必要はありません。盲導犬を見かけると、触る、口笛を吹く、食べ物をあげようとする方もいるかもしれませんが、盲導犬の気を引くようなことは避けていただけるとうれしいです。

盲導犬は人がとても好きなので、初対面の人でも友好的に接してしまいます。それが段差や交差点の近くだったら、思わぬ危険につながるかもしれません。

彼らの仕事を妨げないようにそっと見守ってあげてください。

――盲導犬と視覚障害者が、今より過ごしやすい社会を目指す上で、必要な一人一人の行動はなんでしょうか?

奥澤:視覚障害者や盲導犬など、普段あまり接する機会がない人がいざ目の前にしたとき、どうすればいいか分からないのは当然だと思います。しかし、受け入れ拒否のように「分からないから拒む」というのは、残念に思います。

もし交通量の多い交差点で盲導犬を連れている人や、白杖を手にしている人を見かけたら、ぜひ自ら「何かお手伝いしましょうか?」「お困り事はありませんか?」と声をかけていただきたいです。

声をかけ、コミュニケーションが生まれることで、初めて視覚障害者にも配慮された社会が広がっていくと思います。

編集後記

「接し方が分からないからこそ関心を向け、自ら関わってほしい」。奥澤さんの言葉が心に響いた取材でした。

また、本記事にはないエピソードではありますが、取材中、ハッとしたのが、タッチパネルの話でした。コロナ禍を経て、タッチパネルでの注文や決済が増加しましたが、中には視覚障害者には利用できない設計のものもあるそうです。

誰かにとっての便利は、誰かにとっての不便となっているのかもしれません。「では、誰にとっても便利とはなんだろう?」を考えるきっかけともなりました。

誰一人取り残さない社会のためには、「多様な人の声を聞くこと」が重要なのだと、改めて痛感しました。

公益財団法人日本盲導犬協会 公式サイト(外部リンク)