そもそもデジタル赤字は悪いことなの? 

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「赤字」というネガティブなイメージの言葉が使われているからでしょうか。デジタル赤字の拡大は悪いことだというニュアンスで多くの報道がなされています。しかし、本当にそうなのでしょうか。確かに悪い側面があることは事実です。

まず、海外企業への支払いが増えるということは日本国内の富が流出するということです。海外企業への支払額が増大すれば、日本企業の利益率は低くなってしまうでしょう。また、海外企業であるため、国内からの統制が利きづらいことも問題です。最近でも、InstagramやFacebookで有名人や芸能人の「なりすまし詐欺広告」が問題となっていますが、被害者がいくら訴えても、運営するMetaはきちんと対応しているとはいい難い状況です。これが日本企業であれば行政指導などで、一発で対処可能でしょう。

こうしたデメリットがある一方で、デジタル赤字の拡大は良い側面もあります。デジタル赤字が拡大するということは、社会のデジタル化が進んだということの証です。クラウドサービスを利用することで、大きく生産性を向上させた企業は少なくありません。また、海外のECサイトを利用することで、中小・零細企業のような規模の小さな企業でも少ない投資で海外市場にチャレンジできるようになりました。さらに、クラウドサービスによって日本企業は自社で高額な開発費用をかけることなく、安全性やセキュリティが担保されたサービスを利用できるようになりました。

そもそもデジタル赤字を解消するには、国産サービスを普及拡大し、海外企業に使ってもらう必要があります。しかし、現実問題としてこれから日本企業が検索エンジンやクラウドサービス、OSを独自開発したとして、世界の勢力図が簡単に塗り替えられるとは思えません。日本においても、海外製のサービスが社会全体に浸透した中でこれからすべてのサービスを国産に切り替えることは考えづらいことです。ましてや海外においてはより難しいでしょう。

日本がこれから重視すべきは、デジタル赤字の解消ではなく、海外のデジタル企業が開発したサービスを活用したうえで「どのような製品・サービスを作り、どのように儲けるか」ではないでしょうか。日本の基幹産業である自動車産業でも、部品の多くは海外からの輸入に頼っています。日本メーカーがそれらの部品を組み立て、付加価値を付けた上で売り出しているため、現在においても世界的なプレゼンスを保っているのです。これまで世界になかったような画期的な製品・サービスを開発し、世界中の人に利用してもらえれば、例えデジタル赤字であっても、それ以上のリターンが日本にもたらされるはずです。

かつて、ソニーのウォークマンで世界的なヒットを生み出した日本。日本発のアプリやサービスが世界を席巻――。そんな日が来ることを期待したいと思います。