子どもの不登校をAIで予測

文部科学省が2023年に発表した調査結果(外部リンク/PDF)によると、小・中学生の不登校は約30万人と過去最多を記録。約30人に1人が不登校状態であるという結果になりました。

不登校の理由は、いじめや友人関係のトラブル、授業についていけない、家庭環境などさまざまで、各学校の先生は一人一人に合わせた対策や支援を模索しています。

そんな中、こども家庭庁が実施する「こどもデータ連携実証事業」(外部リンク)において、埼玉県戸田市は2023年11月から2024年3月まで、AI分析による「不登校の予兆検知モデル」の実証実験を行いました。

公立小学校12校、中学校6校の計約1万2,000人の児童・生徒のデータを分析対象に、不登校になる可能性を数字で可視化するもので、システムの開発は株式会社内田洋行(外部リンク)株式会社PKSHA Technology(外部リンク)が行いました。

果たしてテクノロジーで「不登校になりそうな児童・生徒」を予測することは可能なのでしょうか? また、「不登校リスクが高い」と予測された児童・生徒に対して、学校や教師はどのような対応が必要なのでしょうか?

今回、戸田市教育委員会事務局教育政策室主幹の秋葉健太(あきば・けんた)さんに実際にシステムを導入し、運用した結果を伺いました。

不登校の原因はさまざま。一人一人に応じた支援が重要

――日本全体では10年連続で不登校の児童・生徒の数が増加しているとのことですが、戸田市の現状はいかがでしょうか?

秋葉さん(以下、敬称略):2022年度の数字になりますが、戸田市の不登校の児童・生徒の数は小学校113人、中学校193人、全体の割合では約2.6パーセントという結果が出ています。


オンライン取材に応じてくれた戸田市教育委員会の秋葉さん

――戸田市では“誰一人取り残さない教育”を目指して、不登校施策「戸田型オルタナティブ・プラン」(外部リンク)を推進されているとのことですが、具体的にどんなことを行っているのでしょうか?

秋葉:不登校を「支援する」「科学する」「理解する」の3つを柱に、主に小・中学生に対して取り組みを行っています。

「支援する」では、学校以外にも「学びの場」の選択肢の拡充に取り組んでいます。2022度には全ての小学校に、サポートルーム(なんらかの理由により、教室に行きづらさを感じている児童のための生活や学習の場)を設置したほか、オンライン授業の導入、NPO法人カタリバ(外部リンク)との連携によるメタバース空間の不登校支援プログラム「room-K」(外部リンク)の活用も始めました。


こちらの記事も参考に:カタリバの不登校児支援「room-K」。仮想空間がもう1つの居場所に(別タブで開く)

秋葉:また、埼玉県教育委員会と連携し、県立戸田翔陽高校内に、戸田市立中学校の生徒を対象とした生徒支援教室「いっぽ」を設置しています。スクールカウンセラーが生徒の進路に対する不安や心の悩みなどに対応し、専任の職員が高校進学を見据えた学習支援や、高校生たちとの交流も行っています。

「科学する」では、専門家による不登校研究チーム「ぱれっとラボ」を設置し、不登校に対する調査や研究、児童・生徒たちへのアンケートを活用した調査や、不登校の予防・早期発見につながる分析などの取り組みを行っています。

「理解する」では、地域や保護者の方を対象にシンポジウムを開催し、「不登校とは心が風邪をひいた状態である」「不登校を問題行動として捉えるのではなく、児童生徒にとって、多様な学びの場や居場所があり、それらを選択できる環境にしていくことが重要である」ということなどを理解していただくため、専門家や不登校経験者にお話しいただく場を設けています。


令和4年度戸田市オルタナティブ・プランの概要。出典:戸田市(外部リンク/PDF)

秋葉:不登校といっても、いじめや人間関係だけでなく、授業についていけない、外国籍で日本語が話せないため友だちができない、家庭環境に問題があるなど、原因は本当にさまざまで、少しずつ学校に来なくなるお子さんもいれば、ある日ぱったり来なくなってしまうお子さんもいます。

学校側では保護者とも相談しながら、一人一人に合わせて細やかに対応すること、そして子どもたちとつながり続けることを大切にしています。

――今回のテーマである「不登校予測AI」は「科学する」にあたるものですね。

秋葉:そうですね。もともと2022年度からデジタル庁の「こどもに関する各種データの連携による支援実証事業」(外部リンク)の公募があり、戸田市ではデータを収集して活用しようと動いていました。

2023年度にこども家庭庁に移管した後も、「こどもデータ連携実証事業」の採択団体となり、2023年秋頃に不登校予測モデルの運用開始に目処が立ち、実証実験が始まりました。

――では、不登校予測AIは「不登校になりそうな子ども」をどうやって予測するのでしょうか?

秋葉:2022年度における「出欠・遅刻・早退などの状況」「保健室利用状況」「埼玉県学力・学習状況調査」「学校生活に係るアンケート」「教育相談の利用の有無」など、500項目にわたるデータを収集して、AIの機械学習を活用して「不登校予測モデル」を作成しました。

収集したデータをもとに一人一人の不登校リスク判定を行います。判定結果や収集したデータの分析結果等は、利用する校長・教頭が理解・活用しやすくするためにダッシュボード(※)を作成しました。

もともと各学校でシステムに入力していた出席データなどをダッシュボードへ連携するのも市の教育委員会で実施しており、教師の業務が増加するわけではありません。


複数の情報をひとまとめにして表示するツールを指す


不登校リスクはこのように点数で表示される。画像提供:戸田市

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予測精度は高い。問題はランニングコスト

――では、「不登校リスクが高い」と判定された場合、どのような対応をされるのでしょうか?

秋葉:ダッシュボードを閲覧できるのは、各学校の校長や教頭といった管理職に限定しています。まずは管理職を通して担任教師に確認した上で、声かけを増やす、保護者と連絡を取り合うなど、一人一人の子どもに合わせた対応を行っています。また、ダッシュボードを操作すると過去のデータも見られるので、そちらも参考になるかと思います。


授業の理解度を示すページ。画像提供:戸田市

秋葉:昨年度(2023年度)の結果としては、高いリスクが示された児童・生徒のほとんどが、すでに学校で声かけを行い、スクールカウンセラーにつなぐなど見守り対象になっている場合が多かったことから、精度の高いシステムが構築できたと思っています。

――不登校予測AIを導入されてみて気付いたことや、課題はありますか?

秋葉:幅広い情報を元にスコアを算出しているため、何が原因で不登校リスクが高まっているのかが分かりづらいという点はデメリットかもしれません。そのため、不登校リスクが高いと判定されたからといってやみくもに動くのではなく、担任をはじめ、児童・生徒に関わるさまざまな人が一緒に考え、データを参照し、最終的な判断をする必要があります。

また、今後「出欠席」以外にも「心の健康状態」や「体の調子」など、日々の様子をデータベースに加えることで、予測精度はより上がっていくと考えています。

――他の学校でも使えると、助かる人が増えそうですね。

秋葉:そうですね。AIの性質上、蓄積データが増えることで、さらに精度の向上が見込めると思うのですが、人材確保と費用面を抑えることが大きな課題になっています。

戸田市は、昨年度ま(2023年度)では実証事業採択団体として国の支援を受けられましたが、今年度(2024年度)は市の予算だけで進めています。そのため、データベースそのものの保守・開発等に係る予算は確保できても、新たに不登校予測モデルを運用・追加開発などする予算までは確保が難しい状況です。分析事業者とは今後の連携可能性を相談しています。

こうしたランニングコストや人件費を考えると、他の自治体にも広げるためには、基礎自治体の予算だけではハードルが高く、国の支援が必要なのではと感じています。

また、こうしたデータ利活用の取り組みを進める上では、法的な整理・対応等をどうしたらよいか困っている自治体も多いと思います。戸田市では個人情報保護法等を専門とする弁護士に指導・助言をいただきながら、「教育データの利活用に関するガイドライン」を策定し、個人情報保護法に基づいた安全管理措置等を講じると共に、希望者の個人情報をデータベース上から削除する、いわゆるオプトアウトを設けるなど、プライバシーにも配慮しながら取り組みを進めています。

こうした取り組みの成果や課題などの情報は市のウェブサイトで公開していますので、これから新たに取り組む自治体の参考になればうれしいです。