日常からいざ、非日常へ。夏の疲れを解き放つ、自然を感じるラグジュアリーな旅へ出かけよう。コロナ禍の停滞を経て、「コト消費」への渇望が世界的に高まる中、ワンランク上の旅の選択肢として注目を集める豪華客船によるクルーズ。その中でも、クイーン・エリザベスは「いつかは乗ってみたい」憧れの船だ。日本発着の運航も増え、英国流の非日常に身を委ねる好機でもある。
高2の時、英語の授業でフィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』を読まされた。狂騒の1920年代を描いた米国を代表する小説。ところが、読み始めて次の英文でつまずいた。
“There’s a bird on the lawn that I think must be a nightingale come over on the Cunard or White Star Line.”
AIの翻訳によれば、「芝生の上に、キュナードかホワイト・スター・ラインでやってきたナイチンゲールに違いないと思われる鳥がいる」。そのロマンティックな鳴き声を「キュナード」と「ホワイト・スター・ライン」という固有名詞で強調しているのだが、当時はピンとこなかった。
それが最近、腑に落ちた。今年5月半ば、小説に出てきたキュナード・ラインが保有するクイーン・エリザベス(QE)に乗船する機会があったからだ。ちなみにホワイト・スター・ラインはあのタイタニックを保有し、1934年にキュナード・ラインに合併されている。
エリザベス女王にちなんで命名されたQEは、英国の伝統と格式を象徴する最も有名な豪華客船として知られる。近年、日本発着の航行にも力を入れ、今年3 ~ 5月には東京発着のクルーズを実施。その一つ、九州と韓国・釜山を巡って東京に戻る「ビッグバンドボール初夏の九州と韓国10日間」というコースに、途中の佐世保港(長崎県)から乗り、清水港(静岡県)を経由し、東京国際クルーズターミナルまでの5日間を体験した。
実際、船内に足を踏み入れた瞬間から、そこはもう英国だった。フロアを優雅に照らすシャンデリア、3層吹き抜けのグランド・ロビー、そして寄せ木細工を施したアールデコ調の内装……。デッキから外を見渡すと、見慣れた日本の風景なのに、自分のいる空間は紛れもない英国という不思議なギャップ。そしてそれが海原を滑らかに移動する驚き。
吹き抜けになったグランド・ロビーは客船の華やかさを象徴する
QEに乗ることでしか得られない非日常が確かにある。例えば、クイーンズ・ルームで催される華やかなアフタヌーン・ティー。あるいはクラシックなパブで飲み干すオリジナルビール。さらにメインダイニングのブリタニア・レストランでは趣向を凝らした料理が提供される。こうした料理はスペシャリティ・レストランでの食事やドリンク類を除き、クルーズ料金に含まれているのもうれしい。
アールデコのインテリアが美しいブリタニア・レストラン
ゴールデン・ライオンは英国風のパブ。オリジナルビールに合わせ、フィッシュ&チップスなど、食事も楽しめる
アクティビティも実に多彩だ。ガラ・イブニングではツアー名にもなっているビッグバンド・ボールが開催され、着飾った乗船客が社交ダンスを楽しむ。それ以外にもロイヤル・コート・シアターでは様々なレビューが催され、フィットネスセンターでのヨガや個人参加者が親睦を深めるプログラムもある。もちろん、寄港地での観光も楽しい。
ロイヤル・コート・シアターではコンサートや映画上映など、毎日多彩なイベントが催される
これだけ豪(ごうしゃ)奢な時間を重ねると、『グレート・ギャツビー』のナイチンゲールもロマンティックに鳴き始めるわけだ。目的地を周遊する「点」から「点」の旅が、クルーズでは過程も楽しむ「線」の旅になる。さらにQEで過ごす優雅な時間が、旅を「線」から「面」へと豊かに広げてくれる。2025年の予約はすでに始まっている。実際に乗船して、英国流の非日常にじっくりと身を委ねてみてほしい。
最もスタンダードなバルコニー付きのキャビン。アメニティも英国王室御用達の「ペンハリガン」と抜かりがない
個人的なお気に入りは船内のサウナ。海に面した壁が全面ガラス張りになっていて、大海を眺めながら「ととのう」ことができる
デッキ9の前後にプールがあり、ジェットバスでゆったりと身体を癒やすこともできる
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