アンコール遺跡の夜に

こんにちは。アンヌです。
 月がひときわ明るく見える季節になると思い出すのがカンボジアです。私が従妹とアンコール遺跡を訪れたのは20代の頃。まだ観光客もまばらで、素晴らしい寺院群を巡りました。そして迎えた旅の最終日。
 私と従姉は、ガジュマルの大木が絡むタ・プロム寺院を後にし、夕日スポットのプレ・ループ遺跡へ向かう一直線の道を急ぎました。
 遺跡の入口から上の回廊まではまるでクライミング。登るとそこには、広大な圧巻の眺めが待っていました。あたりをオレンジ色に輝かせ、ゆらゆらと沈んでゆく夕日。あまりの美しさに時間を忘れ、気がついたらもう空が暗くなりかけています。
 慌てて振り向くと、今度は目の前に大きな満月!
 ドラマチックでしたが、見とれている時間はありません。
 足元を探りながら出口までなんとか下ります。ほかの観光客は帰ってしまっていたうえに、予約したバイクタクシーの姿もありません。
 私たち二人が途方に暮れていると、しばらくして「ごめんごめん」というようにバイクのお兄さんが現れてくれました。
 さあ、東南アジア風に3人乗りで帰路へ。しかし、これで帰れると安心したのも束の間。乗ったバイクは、もと来たタ・プロム寺院への直線道路を辿りません。そして突如ブレーキがかかり、私たちは降りるよう促されました。クメール語なので、理由がわからない。お兄さんはバイクを押しながら進み始めます。私たちはその後をついてゆくしかありませんでした。月明かりだけを頼りに、街灯もない田園の中を私たちはどのくらい歩いたでしょう。ふと、小さな集落に着きました。
 そこには大柄の男性が立っていました。お兄さんとなにか話し合い、二人は小屋の中へ。やがて、大きなたらいを抱えて戻ってきました。水が張ってあります。その中にタイヤを突っ込み……。泡が出る箇所を探しているのを見て、やっと状況が分かったのです。パンクでした。
 修理が終わると、お兄さんはニコニコと再び私たちを乗せてバイクを走らせました。無事、宿泊先に到着。ホッとした途端にクメール語が理解できたのです。「こっちの道のほうが近いんだ」と。
 満月の光に見守られた、ちょっとした珍道中でした。
 今回は月が美しく描かれた作品2冊をご紹介します。秋の夜長を楽しんで!

*次ページではアンヌさんのおすすめ2冊をご紹介します

『お月さんのシャーベット』

作/ペク・ヒナ
訳/長谷川義史
(ブロンズ新社 1,540円)

夜があまりに暑いので、とうとう満月が溶け出すというハプニングが! ぼたぼたと滴る月の雫。集合住宅のおばあちゃんは、それをたらいで受け止めて型に入れ、シャーベット作り。すると停電で真っ暗に!でもおばあちゃんのところからだけ光が溢れています。そこで住人たちは……。ユニークな発想、美しい光の描き方、可愛い住人たち。どこを切り取っても素敵なファンタジーの世界が広がります。長谷川義史さんによる関西弁の訳も和む、まだまだ暑い9月にぴったりの一冊です。

 

『ゆめみるどうぶつたち』

文・絵/イザベル・シムレール
訳/石津ちひろ
(岩波書店 2,640円)
 
満月が輝く夜。眠っている動物たちはどんな姿で夢を見ているのでしょう。ナマケモノは風より速く走る姿。ザトウクジラは背中を伸ばしたバレリーナ。フラミンゴはピンク一色の世界。丸まったり、さかさまだったり、なかには飛びながら眠るものも。ページをめくるごとに月光に照らされた生き物たちの姿が、息をのむほど美しく描かれています。繊細かつダイナミックな線と色使いを、近くでも遠目からも、繰り返し眺めたい。絵画級の一冊です。

【NEWS!】アンヌさんが絵本の魅力を指南
Anneの絵本の楽しみ方
~絵本からはじめるセルフメンテ~
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