年齢を重ねるごとに、毎年受ける健康診断で引っかかる項目が増え、それとともに今後の自分の健康に対する不安も大きくなっている人も多いのではないだろうか。
しかし、高齢者専門の精神科医である和田秀樹氏によると、「健康診断の結果と将来の健康状態がはたしてどれくらいリンクするのかについて、長期で追跡するような試みは日本ではあまり行われておらず、いわゆる「正常値」を維持することに明らかなメリットがあると判断できるエビデンスは日本にはほとんど存在しないのだ」と言う。
では、真の意味での健康を手に入れるには、具合的に何をすればいいのだろうか。和田先生流のメソッドをご紹介する。
(この記事は、和田秀樹氏の新刊『60歳からの脳と体が若返るワークブック』より一部を抜粋し、再編集しています)
◆健康診断をサボり気味の人のほうがむしろ長生きできる!?
「健康を維持したくて、毎年欠かさず健康診断を受けるという方も多いと思いますが、健康診断を受けようが受けまいが、実はたいして変わらないのではないかと思われるような現象はいくつもあります」と和田先生は指摘します。
たとえば従業員に健康診断を受けさせることが義務化されたのが1972年なので、今の80代の男性のかなりの部分は、若い頃から毎年健康診断を受けています。
一方同じ80代でも女性の場合は、専業主婦やパート勤めだった人が多いので、あまり健康診断は受けていません。けれども、健康診断が義務化される前より、寿命を伸ばしているのは女性のほうです。
ほかにも、大きな市民病院が廃院になり、高齢者にとっての健康診断代わりとなるこまめに病院通いができなくなった結果、がんや心臓病、脳卒中による死亡者が減り、老衰で亡くなる人だけが増えたという「夕張パラドックス」も有名です。
つまり、健康診断をせっせと受けることが必ずしもメリットになるとは限らないどころが、むしろ逆効果にある可能性さえあるのです。
◆「正常値」も「健康法」も人によって違うのが当たり前
和田先生は「血圧やコレステロール値などが、世の中で言われている『正常値』からは多少外れていたとしても、その値のときが一番体調がいいと感じているのなら、きっとそれがあなたにとっての『正常値』なのです」と言います。
健康というものとそういう基準で判断できるようになると、「健康のため」にやっていたことが、むしろ健康を遠ざけていたということに気づくことがあるかもしれません。
また、健康法というのはあくまでも確率論なので、大部分の人にメリットがあることでも、ある人にとってはかえってデメリットになることもあり得ます。
つまり、自分の体に何が良くて、なにが悪いのかは、自分で実際にやってみなければわからないのです。
◆眉ツバものに思える健康法でも試してみる価値はある
また和田先生は、「逆に言うと、一見眉唾モノだと感じるものであっても、試しもせずに『意味がない』とか『効果がない』と決めつけてしまうのはもったいないと思う」とも言います。
疑いながらもとりあえず試してみると意外にも自分に合っていて、一日元気に過ごせるとか、抱えていた健康上の問題がうまく改善することもあり得ます。
和田先生自身も「ヨーグルトを食べるときにターメリックとシナモンとコリアンダーをかけて食べると血管が若返る」という話を聞いて、半信半疑ながらもとりあえずしばらく試してみたら、血管年齢が以前より20歳ほど若返ったそうです。
それの効果なのかはよく分からないそうですが、なんとなく気分もいいし、体に悪いものでもなさそうなので、そのまま続けているとか。
◆今心がけている健康ルーティンがベストだとは限らない
「年齢を考えると、日々の体調なんてまあこんなものだろう」などと、低め安定の体調に慣れきっていないでしょうか?
「毎日の過ごし方を少し変えてみるだけで、もっと元気に過ごせる可能性はおおいにあります」と和田先生。
簡単に諦めたりせずに、今日よりも元気な明日を欲張ってみることこそが、いくつになっても元気でいられるコツなのです。
今日とは違う明日のためには、もちろんなにかを変える必要がありますが、手っ取り早いのは、自分なりの毎日のルーティンに少し変化を与えることです。
例えば朝食前の散歩の習慣は確かに健康的ですが、人によっては、朝ではなく、夕方に散歩するほうが夜もよく眠れて、より体調がよくなるということに気づくこともあるでしょう。
もちろん場合によっては、かえって体調が不安定になったり、やっぱり朝の散歩のほうが気持ちいいなと改めて感じたりすることもあるかもしれませんが、その時は元に戻せばいいだけです。
◆本当にいい医者がどうかを判断するのもあなた自身
ところであなたのかかりつけ医は、しっかりとあなたの話に耳を傾け、生活の質をできるだけ落とさないようにしながら、あなたが訴える苦痛を取り除くことを第一に考えてくれますか?
薬を飲むことで副作用が現れていないか気にしてくれたり、ほかにどんな薬を飲んでいるか聞いてくれたりするでしょうか?
「そのような理由もないのに、『近いから』とか『大きい病院だから』といった理由だけでその医者のところに通っているとしたら、さしあたっての病気は治ったとしても、結果的には薬漬けになったりして、真の意味での健康からは遠ざかる危険があります」と警鐘を鳴らします。
◆大切なのは健康なうちに医者を比較検討しておくこと
本格的に具合が悪くなってしまってからだと医者探しなどやる余裕はなくなりますので、大事なのは、比較的健康状態がいいときに、「健康相談」という名目でいろんな病院に行き、医者を比較検討しておくことです。
高齢者をたくさん診ているような医者から当たっていくのが良いと思いますが、周りの人たちからの評判がいいからと言って、その医者があなたにとってもいい医者であるとは限りません。実際に会って話してみて、自分と本当に合うのかどうかを、自分自身で判断してください。
文/和田秀樹 構成/日刊SPA!編集部
【和田秀樹】
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。 東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、 現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。 高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。 ベストセラー『80歳の壁』(幻冬舎)、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)など著書多数。