アメリカではインフレがほぼ抑えられ労働市場が冷え込んでいることから、8月23日に行われた経済シンポジウムの基調講演でFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長が9月からの利下げ開始を示唆しました。この点について、アメリカのメディアや専門家はどう見ているのでしょうか?

FRBパウエル議長、9月からの利下げを示唆

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「FRBが金利引き下げを開始する時が来た」
アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長はこのように、9月からの利下げ開始を事実上明言しました。インフレがほぼ抑えられ労働市場が冷え込んでいることから、パウエル議長は8月23日、FRBは23年ぶりに高水準からの政策金利引き下げを開始する用意があると発表したのです。

利下げの開始時期やペースなどの詳細は言及されませんでしたが、9月中旬の次回会合で政策金利を0.25ポイント小幅に引き下げる発表があると見られています(この記事がアップされる頃にはそうなっているかもしれません)。

ワイオミング州ジャクソンホールで開かれた8月23日の経済シンポジウムの基調講演の場に現れたパウエル議長によると、利下げの時期やペースは今後発表されるデータや変化の見通し、リスクのバランスによって決まるということです。歴史的なインフレについては「多くの一般家庭が、この40年間で最悪の物価高騰に悩まされたが、そのインフレはほぼ制御されているようだ」と強調しました。

22年3月以降、インフレの抑え込みを最優先し異例と言えるペースで利上げを進めてきたFRB。その結果、同年6月には約40年ぶりの高水準となる9.1%を記録した米消費者物価指数ですが、その上昇率は今年7月に2.9%まで低下しています。

「パウエル氏の評価は、FRBが2年半にわたるインフレとの闘いから経済成長と雇用維持に向けたより広範な取り組みへの根本的な方向転換を示唆している」とAPなどアメリカの各主要メディアは伝えています。

この利下げが約束されたことで、ウォール街の株価上昇が加速しました。債券利回りは低下し、株価指数は全般的に上昇しました。

8月23日の外国為替市場では日米の金利差縮小が意識され、円相場は一時1ドル144円台前半と円高・ドル安が進みました。

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エコノミストなど専門家の今後の疑問は、FRBがどの程度利下げするかについてでしょう。また9月6日に発表された8月の雇用統計結果も重要です。この統計で2ヵ月連続で雇用が低迷していることが示された場合、FRBは政策金利をより積極的に0.5ポイント引き下げる可能性があるからです。

年内の残り3回の会合でそれぞれ0.25ポイントの利下げを行うと予想している専門家もいます。FRBの基準金利が引き下げられれば、今後、自動車ローン、住宅ローン、そのほかの消費者向け借入金利も引き下げられ、株価は上昇するでしょう。

パウエル議長は金利を引き下げることで、強固な労働市場を維持しながら2%のインフレ率に戻るであろうことを示唆しました。

アメリカの一般市民、中でも低所得者層(アメリカでは「その日暮らし」や「貯蓄がなく生活費をその都度収入だけに頼る」という意味を持つ “living paycheck to paycheck”とも呼ばれます)の反応は、インフレが再び強まるリスクが低下していることから安堵はあるものの、だからと言って一旦急騰した日々の食料品やモノの価格帯が大幅に下がるわけではないため、依然厳しい状況が続いている状況です。

またこれまで好景気と言われてきたアメリカ経済ですが、景気後退感があるかと聞かれれば、商売をしている人は敏感に感じることでしょう。一般生活ではそれほど感じることはありません。それよりもインフレ(価格高騰)、家賃急騰による家計の圧迫が日々の生活の負担になっているのが大方の見方ではないでしょうか。

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大統領選間近のタイミング

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またアメリカでは今年の11月に、4年に一度の大統領選挙が控えています。特に今回は高齢のバイデン大統領に代わって米史上初の有色人種の女性の大統領が誕生するのか、はたまた前大統領が返り咲くのか、大きな注目が集まっています。

投票日からわずか約1ヵ月半前の9月中旬の利下げは、政治的騒動に巻き込まれたくないFRBにとって、好ましくない政治的圧力になる可能性があります。共和党の大統領候補であるトランプ氏は、選挙を間近に控えた時期にFRBは利下げをすべきではないと主張しました。しかしパウエル議長は、FRBは政治的な行事に関係なく、経済データに基づいて金利を決定することを繰り返し強調してきました。

日々の生活において景気の先行感についてはあまり実感はないのが実情ですが、インフレ封じのために高金利が続いたアメリカの利下げは今後世界経済にも影響を与えていきそうです。