若い医師や看護師にかかる際、不安を感じる方は少なくありません。しかし、社会心理学的観点からみれば、若い先生の方がむしろ「アタリ」なのです。その一方で、勤続年数の長さ=スキルの高さではないということが証明された昨今、ベテラン世代の担うべき役割とは、一体どのようなものなのでしょうか。内藤誼人氏の書籍『すごく使える社会心理学テクニック』(日本実業出版社)より一部を抜粋し、見ていきましょう。

勤続年数の長さとスキルの高さは比例しない!それどころか…

仕事の腕前というものは、勤続年数とはあまり関係がありません。

ただ漠然と仕事をしていても、スキル(技術)は向上しないのです。自分なりに問題点を見つけたり、改善点を探ったり、いろいろと試行錯誤をくり返したりすることによって技量はアップするものなのです。なんの努力も工夫もせず、ただ「年数が経った」というだけでは、仕事力は高まりません。新人のときのままです。

ハーバード・メディカル・スクールのニティーシュ・チョーダリーは、医師の治療の質が勤続年数とともに変化するのかどうかを調べた論文を集めました。1966年から2004年までに62の研究が見つかりました。

普通に考えれば、医師としての活動年数が長くなればなるほど、技術は向上しそうなものですが、結果はまさに逆でした。

62の研究のうち、32の研究(52%)では、なんと医師の技術は、よくて若い頃と同じレベルで、年数とともに落ちることがわかったのです。13の研究(21%)では、年数と技術にはなんの関係も見出されませんでした。

本人の努力と工夫がないまま、なんとなく仕事をしているだけでは、現状維持どころか、むしろ技術は落ちてしまうのです。

同じような研究は、フロリダ州立大学のアンダース・エリクソンも発表しています。

エリクソンが調べたのは、医師ではなく看護師。

ところが看護師でも結果は同じで、経験豊富な看護師でも、看護学校を出てほんの数年の看護師と看護の質はまったく変わらなかったのです。

私たちは、なんとなく年配のお医者さんのほうが安心できるものですが、腕前だけでいったら新人のお医者さんとほとんど変わりません。

かりに初めて訪問する病院の先生が若く見えても、「大丈夫なのかな?」と心配しなくてよいかと思います。むしろ若い先生のほうが、最新の研究などもしっかりと勉強していますし、手術のスキルをトレーニングして磨いていることのほうが多いからです。

年配の人にはまことに申し上げにくいのですが、ただなんとなく仕事をしているだけでは、仕事で必要とされる技術は向上しません。

若い人に負けないよう、しっかりと努力しておく必要があることを覚えておきましょう。

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組織変革の要!?耳に痛い指摘はベテランにおまかせ 

たとえどんなに正しいことでも、若い人が言うのと、年配者が言うのでは、相手の受け止め方はずいぶん変わってきます。

「うちの会社のこういうところはどんどん改革していこう」

「悪いことを見て見ぬふりをするのはやめよう」

「みんなで声をかけあいながら仕事をしよう」

若い人がそんなことを提案しても、鼻で笑われてオシマイです。「若造が何をえらそうに」と思われるだけ。経営者や重役にとって耳が痛いことは、年配のベテランにまかせましょう。

もし会議で発言をしたいのなら、「○○さん、言ってください」とあらかじめベテランにお願いしておくのがよいでしょう。そのほうが受け入れてくれる確率もアップします。

オーストラリアにあるクイーンズランド大学のマシュー・ホーンゼイは、116名の大学生に、職場の批判をする人のシナリオを読んでもらいました。ただし、そのシナリオの一部は実験的に変えてあります。あるグループでは、批判をする人が、「入社7日目」と書かれていて、別のグループでは「入社19年目」と書かれてあったのです。

それから、職場を批判する人についての印象を尋ねると、まったく同じ批判をしているにもかかわらず、入社7日目の人の意見は悪く評価されましたが、入社19年目の人の意見は快く受け入れられたのです。

年齢が若いうちには、基本的には何もしないのが正しい姿勢。

どうせ何を言っても受け入れてもらえませんし、煙たがられるのがオチですから、できるだけ静かにしていたほうがいいのです。

会社を改革したり、組織の変革を求めたりするのは、自分がもっと年配になってからにしましょう。それまでは大人しくしていて、会社にどういう問題があるのか、どんなふうに変革すればいいのかをじっくりと考える時間に当てるのです。

自分が年をとるのを待つのはイヤだというのなら、やはりベテランに言ってもらったほうがいいですね。勤続20年、30年の人の言葉は、かなり重く受け止めてもらえますから。

若い人にとっては理不尽だと思われるかもしれませんが、年齢というものは発言に重みを持たせる重要な要因。どんなに頭がよかろうが、どんなに素晴らしいアイデアや改革案を示そうが、若いうちには聞いてもらえません。

内藤 誼人

心理学者、立正大学客員教授、有限会社アンギルド代表

慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。社会心理学の知見をベースに、心理学の応用に力を注ぎ、ビジネスを中心とした実践的なアドバイスに定評がある。『心理学BEST100』(総合法令出版)、『人も自分も操れる! 暗示大全』(すばる舎)、『気にしない習慣』(明日香出版社)、『人に好かれる最強の心理学』(青春出版社)など、著書多数。