「朝はジムへ行き、夜は飲み会へ」筋トレと仕事を両立する“マッチョな会社員”の逆算思考

会社員が仕事とプライベートの両立を図るためには、オンオフのメリハリが大事。仕事に打ち込むことも大切だが、適度に趣味やスポーツに没頭する時間を取ることで、ストレス解消や息抜きになり、充足感のある生活を送れることだろう。

こうしたなか、営業の仕事をやりながらフィジーク(筋肉の美しさとバランスを競うスポーツ)の選手として切磋琢磨する“マッチョな会社員”がいる。

アニメやゲームなどのビジュアル制作を手がける株式会社アクアスターの遠藤大樹さん(26歳)は、本業では企画営業部のマネージャーを務めながら、フィジークでは神奈川県の3つの大会で優勝を収めるなど、「会社員とフィジークの2刀流」で活躍している。

フィジークに目覚めた理由や、仕事とプライベートのバランスを保つために心がけていることについて、本人に話を聞いた。

◆友人の“マッチョ”になった姿に憧れて…

遠藤さんは、小学校から高校3年まで野球をやっていたそうで、昔から競技力向上のための体づくりには取り組んでいた。

転機になったのは、高校3年時の夏。肘の靭帯を痛め、手術を経験した際のリハビリが「筋トレに目覚めた最初のきっかけだった」と遠藤さんは話す。

「野球は投手をずっとやってきたのですが、ダルビッシュ有選手や大谷翔平選手も受けた『トミー・ジョン手術』を自分自身も経験し、そのリハビリで筋トレを始めました。体をひと回り大きくして、選手として復帰したいという思いから、筋トレに励むようになったんです」(遠藤さん、以下同)

大学では野球部に入らず、クラブチームに所属。平日は筋トレ、土日は野球という生活を送っていたという。

そんななか、フィジークを知ったのが大学2年のときで「高校時代の友人が見違えるように体格が変わったのに衝撃を受けた」と遠藤さんは言う。

「以前からマッチョには興味を持っていたのですが、友人がフィジークをやるようになってリアルに体付きが変わっていくのを目にしたときにすごく感化されました。『自分もやりたい』という憧れの気持ちから、フィジークの大会に出てみようと考えるようになりましたね」

◆社会人4年目の時に才能が開花。3つの大会で優勝に輝く

こうして、遠藤さんは大学3年のときに肉体美と見た目の美しさを競う「ベストボディジャパン」に出場した。

だが、初大会では予選落ちを経験する。

遠藤さんは「その頃は野球の試合で勝つための体づくりも意識していたため、肉体美を競う大会に合わせたトレーニングはやってこなかった」と当時を振り返る。

「野球の能力を上げるために、足のトレーニングを多めにこなしたり、瞬発系のトレーニングを入れたりしていました。でも、それ自体がフィジークに結びつくわけではないんです」

そこから、社会人になって現在の会社へ入るタイミングで、フィジークの大会で結果を出すためのトレーニングや目標へ完全にシフトさせていったそうだ。


コロナ禍の影響でフィジークの大会が中止になった時期もあったが、遠藤さんは社会人2年目から大会に出始めるように。

最初は結果が出ずに予選落ちが続いたものの、諦めずに地道にトレーニングを重ね、社会人4年目には「横浜オープンボディビル・フィットネス大会」、「マッスルゲート浜松大会」、「神奈川県フィットネス選手権」の3つの大会で優勝を勝ち取った。

「審査員がどういう部分を評価するのかを研究し、効果的なトレーニング方法を試行錯誤しながら筋トレを続けたことが成果になってあらわれたと思っています。専属のトレーナーはつけずに独学で筋トレをやってきたのですが、大会で優勝できたのは大きな自信につながりました」

◆仕事も筋トレも少ない時間で最大限の成果を上げる


しかし、日頃の仕事をこなしながらトレーニングの時間を確保するのは、なかなか難しい部分もあると言える。

遠藤さんは「仕事もトレーニングも、できるだけ質を上げて、短時間で終わらせることを意識している」と語る。

「仕事以外の時間は基本的に週5でジムへ通い、フィジークの大会に向けたトレーニングを行っています。仕事が広告代理店向けの営業なので、突発的な対応や連絡をする場面もあり、あまりトレーニングに時間をかけすぎても、仕事に支障が出てしまうんですよ。

そのため、少ない時間で最大限の成果を上げるために、トレーニングは1〜2時間で終わらせるようにしています」

トレーニング中に仕事の電話が来たら、緊急度に応じて一度中断し、対応を行ってから筋トレに戻るなど、臨機応変に動けるようなマインドを常に持つようにしているそうだ。

また、トレーニングする時間は、大会を控えた時期とそうでない時期で異なるという。

大会がないときは、始業前の朝にジムへ行き、夜は職場の同僚と飲み会へ行ったり友人と食事を楽しんだりして、プライベートを充実させている。

一方で、大会の4〜5ヶ月前からは減量期に入るので、仕事後の時間にジムへ通うようにしているとか。

「このようなルーティンにしているのは『暇な時間』を埋めるためです。お腹が空いていても勤務中は集中できるのですが、仕事の後に暇な時間ができてしまうと、どうしても空腹を感じてしまうんですよ。

減量期は食事や摂取カロリーのコントロールをしなければならないので、仕事が終わってからそのままジムへ行き、その後にご飯を食べて寝るだけの生活になるように、時期によってトレーニングの時間を使い分けています。飲み会に誘われてもウーロン茶を飲んだり、野菜中心のメニューを食べるようにしたりと、うまく工夫しながら体づくりを行なっていますね」

◆「営業予算の未達は一度もない」。逆算思考で行動する重要性


二足の草鞋を履いて活動する遠藤さんの仕事ぶりとは……。

営業職に従事する遠藤さんは「会社の方針でもある受注単価の高い案件を狙いにいく営業手法で月次目標を達成できるように努めてきた」と、仕事を前倒しで進めるための考え方を次のように説明する。

「広告代理店向けに営業を行うなかで、バジェット(予算)を多く持つクライアントを見極め、なるべく上流の方へアプローチできるように意識しています。例えば、営業局とクリエイティブ局に分かれている広告代理店の場合、後者に商談を持ちかけても、細かなやりとりが発生してしまい、案件化するまでのリードタイムが結構長くなってしまうんですよ。

なので、あらかじめ営業局の予算を抑えにいって、クリエイティブ局にビジュアル制作を依頼する前に、弊社が請け負うことによる課題解決やメリットを訴求していいくようにしています」

こうした営業手法に取り組んだ遠藤さんは、新規開拓よりも紹介で発注をもらえる仕組みの構築に成功し、実績を重ねていく。

2020年に新卒で入社後は2022年にチーフ(主任)へ昇進。さらには2023年にリーダー、2024年にマネージャーへ就任するなど、着実にステップアップしてきた。

遠藤さん曰く、「これまで予算の未達は一度もない」そうで、必達させるための努力を怠らない姿勢があったからこそ、短期間で出世を果たせたわけだ。

これはフィジークにも通じることで、「こんな体になっていたい」という目標から逆算して行動に移すことが肝になっているという。

「仕事でもフィジークでも“情熱”を持ち、“努力”を欠かさないことが前提になっていますが、毎年テーマと目標をしっかり定めるのが自分流です。

仕事の面では、『この予算を達成するために何をやるべきか』を考えることが大事になります。それはフィジークの面でも同じで、『次の大会に臨むまでに足りない筋肉を補うためのトレーニングを重点的に行う』など、常に逆算思考を持ちながら動くのを大切にしています」

◆仕事とフィジークの両立は同僚にも好影響を与えている

最後に今後の展望について遠藤さんに伺った。

「9月末に岡山でフィジークの全国大会があるんですけど、そこで10位以内に入れるように頑張りたいですね。仕事では、僕が所属する部署の組織がまだ小さいので、もっと規模を拡大できるようにしながら、後輩の育成にも力を入れていきたいと思っています」

遠藤さんがフィジークで活躍している姿に感化され、社員からも「筋トレを始めてフィジークの大会に出たい」という社員も出てきているという。

仕事もフィジークも全力で取り組む遠藤さんの姿勢に、周りの社員もいい意味で巻き込まれ、良好な人間関係を育んでいく。

面白い働き方をする社員の存在は、会社組織に好影響を与えるのかもしれない。

<取材・文・撮影(人物)/古田島大介>

【古田島大介】

1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている