15年間で“48の資格を取得”した芸人を直撃。仕事も人脈も増えて「月収が3倍になった」ことも

吉本興業所属のお笑い芸人コンビ「女と男」の市川義一さん。彼には、他の芸人にはない特技がある。それは、資格を取得すること。

市川さんが、これまでに取った資格の数はなんと47個(取材前の時点。現在は48個)。カッパ生け捕りに必要な「カッパ捕獲許可証」なるものから、FP技能検定といった難しいものまでさまざまな資格を有し、芸人としてのキャリアに役立てているそうだ。先日は著書『「地味な資格」だけで人生は豊かになる』(Gakken)を上梓。資格の「意外なパワー」を、読者に紹介している。

多くの資格を取ったことで、市川さんの職業人生にどのような変化が生じたのだろうか? ご本人にうかがった。

◆今も増え続ける取得資格

――47もの資格を持っているのはすごいですが、これからも資格は取得していく予定ですか?

市川義一(以下、市川):そうなんです。実はすでに48に増えています。48番目は、日本唐揚協会の唐揚検定です。

きっかけは、小学4年生の息子といろいろ話していたときに、息子が『僕も何かしたいな』と言ってきたことです。『何か好きなことあるの?』と聞いたら、『唐揚げが好き』だと。そこでネットで調べたら、唐揚検定というのがありました。オンラインで無料の筆記試験があって、2人で一緒に取れました。

◆出演者の一言でファイナンシャルプランナーの資格を取る

――そもそもの話にさかのぼりたいと思いますが、最初に取った資格は何ですか?

市川:ファイナンシャルプランナーの資格です。15年ほど前、芸人になって5年目になってのことです。

自分は大学を卒業して、金融機関に就職しました。ですが、芸人への夢が断ちがたく、1年で退職して吉本興業に入ったのです。23歳のことでした。相方を見つけて“女と男”というコンビを組んだのですが、ほとんど仕事がない。でも、4年目あたりから相方だけ仕事がバーッと入ってきました。一方で僕は、週1回あるかないかでした。

なんとか打開せにゃと思っていたある日、あるラジオ番組に出演しました。そのとき一緒に出演した人が、元芸人のファイナンシャルプランナーだったのです。当時この資格は、できて間もないものでした。その人に、『芸人の立場でおもしろおかしく、お金の話してみたら』と言われました。現役の芸人で、その資格を持っている人おらへんし、経済学部の出身で、金融関係にも勤めたからぴったりと思われたのですね。

それで、FP技能検定という試験を受けて、ファイナンシャルプランナーの資格を取りました。

◆資産運用セミナーの講師の仕事が舞い込む


――その資格はどのように仕事に活かせましたか?

市川:お金の仕組みに詳しくなって、保険のことがよく分かったり、確定申告がラクにできるようなるなど、自分自身がそのメリットを体感しました。

具体的に一例を挙げますと、結婚を機に、生命保険に加入しようと代理店で相談しました。おすすめのプランを提案され、資料を持ち帰って妻と検討したのですが、おすすめのほうが得しないものだったのですね。代理店は儲かるものだったのでしょうけど、ファイナンシャルプランナーの資格と知識があることで、見抜けました。

――まさに実利に繋がったというわけですね。

市川:周囲の芸人さんは確定申告に詳しい人は少なく、専門知識があるということで、みんなが聞いてくるようになるなど、芸人の人脈も広がりましたね。

そこから仕事に発展し、資産運用セミナーの講師として100人ぐらいの人を前に講義をしたこともあります。資格の威力を実感しました。

◆好きなことに関連した資格を次々取得

――それで、いろいろな資格に目を向けるようになったわけですね。最初のうちは、どのような資格を取っていったのですか?

市川:自分が好きなことと関連する資格を優先しました。これは、初心者が資格をスムーズに取るためのコツでもあります。

食べるのが好きなので、日本茶検定とかチーズ検定とか食べ物に関したものを取りました。それから食品衛生責任者とかですね。それで、お茶の名店とかチーズを特集に組んだ番組のロケに行くなど、仕事につながっています。

――YouTubeのチャンネルも資格ありきなんですか?

市川:はい。今も運営している“市川の最新家電チャンネル”につながった資格が、家電製品総合アドバイザーです。もともと家電が好きだったというのもありますが、『電気屋の店員みたい』と言われたことがあって、ものまねできるかなというのもありました。

この資格は、最新の家電に詳しければ取れるというものでなく、機械としての家電の仕組みに精通する必要があって、難易度はかなり高いです。なんとか3回目の筆記試験で合格しました。しかも、資格は有効期限があって5年ごとの更新なんですよ。でも、YouTuberとしてこの資格を有していることは、全然説得力が違います。頑張って、今も勉強を続けていますね。

◆ラグビーの経験がなくてもレフリーを目指す


――ご著書を読みましたが、お取りになった資格のなかで、ちょっと印象的だったのは、ラグビーC級レフリーです。そのいきさつを教えてください。

市川:吉本興業は、コベルコ神戸スティーラーズというラグビーチームを応援していて、運営も手伝っています。ファンイベントの司会とかですね。

吉本には、ラグビーに詳しいいわゆるラグビー芸人が何人かいます。ですけど、みな東京を拠点にする人たちで、関西にはいない。それでイベントをやっても、なんか盛り上がりに欠けるというのがありました。

そんなおり、相方が元ハンドボールの実業団選手だったことから、ファンイベントに呼ばれました。それで、自分がレフリーの資格取ったらいいのではと考えました。当時、日本はラグビーのワールドカップを2年後に控えていました。ワールドカップでも、この資格は活かせるかもとも思いました。

◆レフリーの資格のおかげで月収が3倍に

――なるほど。元選手ではない人が、ラグビーのレフリーの資格をどうやって取るのでしょうか?

市川:自分も、どうやって取るかわからなくて調べたら、筆記試験と実技があるとわかりました。筆記試験は勉強すればいいけれど、実技というのが不明でした。そこで、SNSで『ラグビーのレフリーの資格の取り方教えてください』と呼びかけたところ、『よかったらうちの高校に来ませんか』って、ラグビー部の顧問の先生からお声がかかりました。それでレフリーのやり方を実地特訓しました。

3か月後、試験を受けに行ったら、受験者が50人ぐらいいましたが、全員がラグビーの経験者。会場で『ラグビーやったことない人いますか?』と言われて、僕しか手を挙げませんでした。

実技の試験は、40分の草ラグビーを1人8分の持ち時間でレフリーをするというもの。ちょっとミスはしましたが、無事合格できました。

その意気込みが買われて、コベルコ神戸スティーラーズの応援リーダーという役目を与えられて、今も続いています。それとは別に、ラグビーの日本ワールドカップが開催された頃は、ラグビーに関係した仕事がめちゃくちゃ増えました。それで、一時は月収が3倍になったんです。


市川義一

いちかわ・よしかず 1980年、大阪市生まれ。大学卒業後、金融関係の会社に就職するも、芸人になる夢を捨て切れず、1年で退職。2003年に吉本興業に入社し、ワダちゃんと「女と男」のコンビを結成。ファイナンシャルプランナーの資格を皮切りに様々な資格を取得し、「資格芸人」として世に知られるように。著書に『「地味な資格」だけで人生は豊かになる: 資格で人生を激変させた『「地味な資格」だけで人生は豊かになる』(Gakken)がある。

公式サイト:https://profile.yoshimoto.co.jp/talent/detail?id=369

X:@yochi22222

Instagram:YouTube「市川の最新家電チャンネル」

YouTube「女と男ちゃんねる」

<取材・文/鈴木拓也>

【鈴木拓也】

ライター、写真家、ボードゲームクリエイター。ちょっとユニークな職業人生を送る人々が目下の関心領域。そのほか、歴史、アート、健康、仕事術、トラベルなど興味の対象は幅広く、記事として書く分野は多岐にわたる。Instagram:@happysuzuki