“風呂キャンセル界隈”という言葉が注目を集めている。単純に面倒で「入らない」という人がいる一方で、ワケあって「入れない」という人もいる。今回は“風呂キャン”せざるを得なくなった人々の実態に迫った。
◆職場の飲食店でいじめに遭い、うつが悪化
うつ系インフルエンサーのダコ地底さん(25歳)は元来のうつ病と発達障害が影響し、“風呂キャンセル”しがちな半生を送ってきた。
「最も入れない期間が続いたのは、職場の飲食店でいじめに遭い、うつが悪化した22歳のとき。首吊りなどの自殺未遂を繰り返した末に実家に戻ったものの、無気力感から2か月間も風呂キャンしてました。3日目から痒みが止まらず、垢が溜まった指の爪先にはウンコ臭がこびりついてたんですが、1か月もすると体が順応し、痒みや臭いを感じなくなってました」
◆同僚に「臭くない?」と指摘されたことも…
少し回復してから雑貨店でのバイトを試みたものの、発達障害の不注意さゆえにミスが重なり、うつ病がぶり返したという。
「1週間風呂キャンしたまま働いてしまい、同僚に『臭くない?』と指摘されたのは堪えました。コンカフェで働く現在は、メイクを落としたくてマメに風呂に入れてますが、いまだに気分が落ちると1日くらいは風呂キャンしてしまいます」
◆「『人としてヤバい』自責の念がきつかった」
一方、双極性障害のYouTuber・ぺぇすけさんの風呂キャンは、超過労働を強いられていた24歳のときから始まった。
「うつ症状が出て、2週間布団から出られなくなりました。頭皮が脂まみれになったり、ヒゲが首まで伸びて痛かったりもしたけど、何よりきつかったのは『風呂に入れないのは人としてヤバい』という自責の念。無理をして一度入ってみたんですが、反動で症状はさらに悪化し、次は3週間も寝たきりに⋯⋯」
◆「『入れないとか噓だろ』なんて声が届くのも残念です」
その後、一定の周期で躁鬱の波が来るようになり、定期的に1か月ほど風呂に入れなくなる生活が7年続いているという。
「うつ期には必ず終わりが来ると身をもって知っているのは多少の救いです。でも、何年たっても風呂に入れない苦痛に慣れることはない。男性で風呂キャンを発信してる人が少ないためか、『入れないとか噓だろ』なんて声が届くのも残念です」
病気に起因する風呂キャンのツラさに男女差などないのだ。
◆「風呂キャン」はうつの初期症状の可能性が高い
精神科医の益田裕介医師は、「風呂に入れなくなるのは、うつ病の初期症状の可能性が高い」と分析する。
「うつ病とは、長年のストレスが蓄積して心身が疲労状態になることを指します。なぜ、うつ病やうつ状態になると風呂に入れなくなるのかというと、入浴は“意外と作業がたくさんある高度な行動”だから。疲労感が高まり、意欲や気力が減退していると、どうしても優先順位が下がってしまうのです」
実際に「お風呂に関する調査(2024年)」(クロス・マーケティング調べ)によると、特に20~30代は「月に数回」しか入浴しない人が多いという結果が出ている。
「女性のなかでも若年層の場合は、排卵に伴うホルモンバランスの変化で、うつ状態に似た気分の落ち込みや睡眠障害が特徴的な月経前不快気分障害(PMDD)の症状が出ることがあります。それに加え、共働きが当たり前になったことで、パートナーに『自分と同じくらい稼いでほしい』と望む男性も増えた。仕事・出産・育児でキャパオーバーになり、心身のバランスを崩しやすい環境になっています」
◆メンタルヘルスの問題への関心が高まっている
そうした世相を反映してか、心療内科を受診する女性の数は増加する一方だという。また、風呂キャンという言葉の広まりにはメンタルヘルスに対する意識変化もあるようだ。
「社会全体がうつ病や発達障害などメンタルヘルスの問題に関心を持つようになっています。それは同時に、自身のメンタルの状態について開示しやすい世の中になったということ。SNSを中心に『風呂キャンセル界隈』という言葉が広がったのも、その現象のひとつとみていいでしょう」
今後はうつの初期症状でもある、食事や睡眠、性行為などを省く行動も「○○キャンセル界隈」として広まると益田氏は予測している。
【益田裕介氏】
精神科医。心の病気を解説するYouTubeチャンネルを運営し、その登録者は60万人を超える。著書に『心の病はこうして治る』(扶桑社)
取材・文/週刊SPA!編集部 撮影/武田敏将 武馬怜子
―[[風呂入らない女子]の(驚)生態]―