さまざまな事情を抱えた人たちが利用するラブホテル。一般的には、ドキドキ、ワクワクしながら、ときにはソワソワと向かう場所だ。
今回は、ラブホの意外な利用法について2人のエピソードを紹介する。
◆コロナ禍で状況が一転したラブホ街
昨年まで約7年間ほどラブホ街に住んでいた野淵茂さん(仮名・30代)。
「いかがわしいマッサージ店が乱立するエリアを抜けた先に、ラブホ街がありました。私はそこで生活していました。徒歩圏内には飲食店やコンビニ、商業施設などがあり、意外と生活しやすかったと思います」
定期的に謎の血だまりを見ることもあったというが、野淵さんは危険な目に巻き込まれたことはなく、比較的快適に過ごしていたそうだ。
そんな中、2020年のコロナ禍以降、ラブホ街の状況は一転したという。
「飲み屋といかがわしい店で盛り上がっていた街は、一連の自粛ムードで静まり返りました。そこの店の利用者が多く占めていたので、かなり人が減ってしまったように感じました。その後の“Go To トラベルキャンペーン”などで息を吹き返すまで、しばらくそのような状態だったと思います」
◆気分転換に“ラブホでリモートワーク”
当時、野淵さんが勤めていた会社も世間の流れに応じて、リモートワークが主体となった。狭いアパートでパソコンと向き合うリモートワークが続き、気分がうつうつとしていたという。ある日“ふと思いついたこと”があったようだ。
「近所にあるラブホは、安いところだと5000円ほどで滞在できます。早朝から夜10時ごろまでのフリータイムプランを用意しているホテルも多くありました」
頻繁にではないが、ラブホは気分転換のリモートワークにもってこいの場所だったそうで、週に1度のペースで利用していた。
「朝起きたら、近所のドン・キホーテに向かい、激安の食料や晩酌用の酒などを調達して、そのままラブホにチェックインするんです。広い浴槽にお湯をためて出社報告したあとは、優雅にお風呂に浸かりながらテレビを楽しみつつ、片手間で仕事をこなしていましたね」
今思えば、「サボり以外の何物でもなかった」と野淵さん。何もできずに気分がふさぎがちだったコロナの期間中、近所のラブホで気分転換ができたのは、ラブホ街に住んでいてよかったと思える数少ない思い出なのだとか。
◆面接官は友人の父親だった
友人に勧められたのをきっかけにラブホで働くことになった高木さつきさん(仮名・20代)。
「面接官は友人のお父さんで、『話は聞いているから』と言われ、採用が決まりました。私のことを知っている人が職場にいるだけで、すごく働きやすいと感じました」
高木さんの主な業務は、フロントでのカギの受け渡しや電話対応、精算などだったという。
「ほかにも部屋の掃除やアメニティの補充も担当しました。人間関係もよく、仕事自体もそれほど苦にはなりませんでした」
働き始めて1年ほどが経ったある日、思いがけない客が入店してきたという。
「その日は夏ですごく暑かったのを覚えています。70代くらいの女性客5名が来店され、フロントにいた私に話しかけてきたんです」
◆ラブホで行われた高齢者たちの読書会
「涼める場所がないかなと思って来てみたんだけどね。部屋を貸してくれんかね」
真夏の朝10時。高木さんは、「涼みに来る気持ちもわかる」と思いながら接客をしたそうだ。
「何時間ご利用ですか?」と聞くと、「そりゃ、12時間よ」と答えたという。
「12時間……! そんなに長く涼を取るわけではなさそうだし、何か他に理由があるのでは?と思いました。そこに、50代くらいの人が重そうな袋を手に、フロントへ来られたんです」
そして、次のように会話が続いた。
「お待たせ。ちょっと、本当にここで読書会するの?」
「仕方ないじゃない。図書館閉まっていたんだから」
どうやら読書会当日になり、図書館が閉館していることがわかったようだ。そして、読書会ができる場所を探したうえで、高木さんが働くラブホに行きついたようすだったとのこと。
そして12時間が経過した22時が過ぎたころ、読書会メンバーがチェックアウトにフロントに現れた。
「私たち、べらべらしゃべっていたから、お隣さんうるさかったかもね」と言いながら、笑顔を浮かべて帰ったそうだ。
「恋愛以外にもラブホにはさまざまな利用法があるんだなと、学びました」
<取材・文/資産もとお>
―[ラブホの珍エピソード]―