若月佑美、舞台で演じる天狗的美女“弁天”を語る「敵か味方かわからない人ってすごく魅力的」

 11月3日(日・祝)から上演が始まる舞台「有頂天家族」に若月佑美が出演する。同作は狸の矢三郎を主人公とした森見登美彦の小説「有頂天家族」(幻冬舎刊)が原作で、若月は矢三郎の初恋の相手でもありながら、矢三郎の師匠である老天狗“赤玉先生”が恋心を抱き、人間でありながら天狗の力を持つという妖艶な女性“弁天”を演じる。今回は若月に「有頂天家族」という作品の印象や演じる弁天についてインタビューを行い、さらに物語にちなんで夏の思い出や若月家の家訓なども聞いてみた。


◆「悪者になり過ぎないように演じたい」

――原作小説は2007年に刊行された作品ですが、読んだことはありましたか。

若月佑美(以下、若月) 知ってはいたんですけど読んだことはなくて、今回お話をいただいて漫画やアニメになっていたことを知りました。漫画もアニメも好きなので、もっと早く知っていればよかったなって思いながら原作を読みました。

――読んでみての感想は?

若月 森見先生の世界観と森見先生だからこそ書ける言葉のチョイスがすごく素敵で。物語はフィクションですけど、舞台が京都なのでリアルなところも感じられたりして、とても面白いなと思いました。ただ、読み終えても弁天のキャラクターはまだつかめていないです(笑)。

――お話を聞いている今は稽古に入る前で、台本を読み込んでいるところだと伺っていますが、小説から台本に形が変わったことで何か感じたことはありましたか。

若月 原作をリスペクトしたうえで、舞台用に物語を組み替えて、見ている方にわかりやすいようになっています。弁天のことでいうと、よりミステリアスに感じられるような演出になっているのかなと、ト書きを見て思いました。

――漫画化もアニメ化もされた作品ですが、舞台というメディアならではの面白さはどういうところに出そうだと思いますか?

若月 “騒がしさ”ですかね。舞台と客席という近い距離だからこそ、それを体験してもらえるんじゃないかなって思います。矢三郎たち狸がみんなで納涼船に乗って繰り出すというシーンがあるんですけど、そこにはお祭りっぽい雰囲気がありますし、弁天が所属する金曜倶楽部の会合も、7人のメンバーが鍋を囲む騒がしさっていうものが出てくる。

もちろんアニメや漫画でも描かれてきたシーンではありますけど、舞台じゃないと出せない音のリアルさや奥行きがあると思うので、そこはお客さまと一緒にガヤガヤしている雰囲気をしっかり出せたらいいなと思います。

――若月さんが思う弁天の魅力は?


若月 他の作品でもそうなんですけど、私は敵か味方かわからない人ってすごく魅力的だと思うんですよね。弁天は基本的には悪い人ではないんですけど、狸側からしたらとか、天狗側からしたらとか、立場を変えるとちょっと悪いヤツに見えてしまう。

でも、だからといって本当に狸や天狗と敵対しているわけではなくて、たまに狸である矢三郎のことを助けたり、そういうところがつかめないし憎めない、魅力的なキャラクターだと思っています。

私が舞台で演じるにあたって一番大事にしたいなって思うところは、嫌われたら絶対ダメだなと。狸側にとっては嫌だなぁって思うような言葉を吐いたりもするんですけど、それでお客さまから“敵”キャラとして認定されてしまうのは違う。弁天というのは悪役ではないので、そこはしっかり悪者になり過ぎないようにしたいと思います。

矢三郎も赤玉先生も弁天に好意を持っている、持っていたからこそ振り回されても許してしまうところがあると思うので、ちゃんとそう思ってもらえるような魅力ある弁天を演じたいです。

◆「自分で自分に後悔しない」「どうせみんな死ぬ」というモットー


――先ほども少しお話に出てきたように、矢三郎たち下鴨家には五山の送り火に納涼船を出すという夏の恒例イベントがありますが、若月さんの今年の夏の思い出は?

若月 秋元真夏ちゃんと高山一実ちゃんとかき氷を食べに行ったんですけど、13時に予約をして、そこから6時間待って19時にかき氷を食べました(笑)。

――予約するときになるべく早い時間を予約しようとして、そのとき既に一番早いのが19時だったと(笑)。

若月 そうなんです。本当は16時くらいには食べているイメージだったんですけど、まさかの19時で。その後に夕食の予定を入れてしまっていたので、おなかがパンパンになりながら20時半からの夕食に行きました(笑)。

――「有頂天家族」には矢三郎の父である下鴨総一郎の「面白きことは良きことなり」という家訓のようなセリフがありますが、何か若月家に家訓ってありましたか。

若月 家訓はなかったですけど、父にはよく「楽しんで」って言われていましたね。それは何に対してもで、例えばオーディションに合格したって話したときにも、「頑張れ」とか「負けるな」じゃなくて「楽しんで」って返ってきますし、逆にグループ時代は私が選抜に入れずにアンダーだったときも、「アンダーという場所の自分を楽しんで」って返ってくるんですよね。それがすごく助かるといいますか、やっぱり「頑張って」って言われると、もっと頑張ろうとし過ぎてパンクしちゃうこともありますし。

悲しいときでも「楽しんで」って言われたら、「この悲しい気持ちすらも、人生で考えたら今しか味わえないことだな」って、そういう切り替えをさせてくれたのが父の言葉だったので、「楽しんで」というのは自分の中で大事な言葉です。

――では、若月さん個人で持っているモットーは?

若月 1つは「自分で自分に後悔しない」。結果がどうであれ、自分が後悔していないんだったら全然前に進めるなって気付いた時期があったんです。例えばオーディションで、自分がそのときに出せる全てを出せていたら、落ちたとしても「今自分が出せる全てを出して至らなかったんだな」って思えるんですけど、出し切れなかったときに落ちてしまうと「何であれができなかったんだろう」とか「もっとやれたのに」っていう、自分への負の感情が出てきてしまうんです。だったら何に対しても自分で自分に後悔しないように行動して、その結果よりも自分がやったことを信じていれば前に進めるなって思ったんです。

もう1つは「どうせみんな死ぬ」という、極論ですけど(苦笑)。どんなに偉い人やお金持ちにも、今どん底で這いつくばっているような人にも、平等に同じゴールが待っているわけじゃないですか。これをポジティブな意味で持っておくと、例えば「髪の毛を切りたいな。でも似合わなかったらどう思われるかな」って考えてしまって一歩踏み出せないときも、「どうせみんな死んじゃうんだから、自分のことなんて覚えてないし、全てがゼロに消えるんだったらまあいっか」って楽観的になれて、一歩踏み出す背中を押してくれたりもするんじゃないかなと思います。

――では最後に、今作の上演を楽しみにしているファンの方へメッセージをお願いします。


若月 今回の「有頂天家族」はすごくワクワクする演出だなと台本を読んだときから思っていて、それが舞台の上で形になったときにお客さんにしっかり伝わればいいなと思います。本当に森見先生の世界観や言葉のチョイスが素敵なので、私たちがそれを体現できるように頑張るのはもちろんですし、現実から一歩離れて何か物語の世界に飛び込んでみたいという方がいらっしゃったら、原作を読んでいなくても楽しめると思うので、ぜひ劇場に来てもらえたら嬉しいです。

取材・文・撮影/須田紫苑