“病めるときも健やかなるときも、死が2人を分かつまで……”生涯添い遂げる「誓い」をしてスタートしたはずの結婚生活ですが、現実は誓いどおりにいかないケースも少なくありません。昨今熟年離婚が増えている背景には、なにがあるのでしょうか。石川亜希子AFPが、その理由と別れたあとの資産形成方法について、事例をもとに解説します。

外面の良い“モラハラ夫”に辟易…59歳女性「我慢の限界」

須田由美子さん(仮名・59歳)は、小学校の校長を務めていた夫、茂さん(仮名・66歳)との2人暮らしに限界を感じています。

もともと、夫は職業柄人当たりがよく、周囲からは「人格者」としてみられている信頼が厚い人物です。一方、家では亭主関白のいわゆる「モラハラ気質」。専業主婦である由美子さんを見下したような言動も多く、長年苦労してきました。

家事を手伝ってもらうなんてもってのほか。日々の育児から親戚の集まりにいたるまで、常に「完璧な嫁」であることを強いられてきました。茂さんは自分の思いどおりにならないと不機嫌になることから、由美子さんはいつしか夫に対して、なにも主張しなくなっていきました。

茂さんが働いているころは、仕事が忙しく家にいる時間も少なかったため、なんとかやってこれました。しかし、茂さんが定年退職して以降、由美子さんにかかる負担は激増しました。

2人の子どもはすでに独立しているため、家には茂さんと由美子さん2人きりです。夫は由美子さんを家政婦のように扱い、自分でやればいいような細かい雑用までいちいち妻に言いつけます。1日中夫の監視下におかれ、由美子さんには1人で安らぐ時間がまったくなくなってしまいました。

さらに、義父亡きあと1人で暮らす義母について介護問題が持ち上がり、由美子さんに相談なく「同居することにしたから」と言い出しました。夫婦で支え合って義母を介護するならまだしも、由美子さんが1人きりで担うことは目に見えています。

子育ても終わり、ようやく1人の時間を持てると思ったのに……。もう我慢の限界

由美子さんの頭に“離婚”の2文字がよぎるようになりました。

とはいえ、長年専業主婦だった由美子さんは、実際に離婚して1人でやっていけるのか不安があります。

「子どもたちに迷惑はかけられないし、やっぱりこのまま一生我慢するしかないのか? 我慢していれば金銭的には老後も安泰だろうけど……」友人にも相談しづらく、いくら考えても堂々巡りで結論は出ません。夜な夜なインターネットで熟年離婚について検索する毎日が続きました。

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日本で「熟年離婚」が増えている理由

いま、同居期間20年以上の夫婦の「熟年離婚」が増えています。熟年離婚という言葉は、2005年に同名のテレビドラマで使われて以来広まり、定着してきました。

厚生労働省が2022年に発表した「人口動態統計」によると、離婚件数自体は約17万9,000件と減少傾向にある一方で、同居期間20年以上の離婚は約3万9,000組と高止まり状態です。全体件数に占める「同居20年以上」の割合は、1975年には5.8%だったものが2000年には16.5%になり、2022年は23.5%と過去最高に。時代の変化が感じられます。

こうした背景には、平均寿命が延びたことによる「老後の長さ」があります。1975年の平均寿命は男性が71.73歳、女性が77.01歳でしたが、約50年後の2022年には男性が81.05歳、女性が87.09歳と、男女ともに約10年延びています。

子どもが独立して家からいなくなり、夫が定年退職して家にいるようになると、1日中2人きりの生活になります。こうした「老後の夫婦生活」が長くなるにつれ、それまで積もり積もった不満や性格の不一致に耐えられなくなり、新しい人生を選択したいと思うケースが増えているのでしょう。

また、熟年離婚は圧倒的に女性からの申し出が多いといわれています。これは、女性の社会進出が進んでいることや、年金分割制度の開始も後押ししていると考えられます。

由美子さんはネットで熟年離婚について検索するうちに、由美子さんと同じような立場にある人の多さに驚き、勇気づけられました。そして、「専業主婦でも財産の半分は分与され、年金も分割してもらえる」ことを知った由美子さんは、離婚後の生活についてFPに相談してみることにしました。