決断前に押さえておきたい「離婚後の資金繰り」
女性が熟年離婚をする際の一番の問題は、多くのケースで経済的に不安定な状態に陥ってしまうことです。したがって、あらかじめ離婚後の住まいや収支についてシミュレーションしておく必要があります。
由美子さんの場合、「離婚後は、母が住む実家に戻ろうと考えています」とのこと。年齢を重ねるほど賃貸物件を借りることも難しくなるため、家賃がかからないことは大きな安心材料です。
由美子さんがネットで知った「財産分与」とは、結婚期間中に2人で協力して増やした資産を公平に分配することです。
たとえ専業主婦であっても、夫が働きやすい環境を整え、家庭を守ってきたのですから、その半分を受け取る権利があります。由美子さんに聞くと、「財産分与についてはきちんと夫と話し合いたいと考えていますが、家計を任されていたこともあり、コツコツ貯めてきたお金が1,000万円ほどあります」と言い、こちらはすぐに持ち出せそうです。
また、結婚期間中に支払った年金を夫婦で分割することを「年金分割」といいます。分割されるのは「厚生年金」のため、配偶者が自営業者など国民年金のみに加入しているような場合は対象外です。由美子さんの場合、元校長である茂さんは厚生年金額も多く、また結婚期間も長いため、試算の結果年金分割で月7万円ほどもらえる見込みであるとわかりました。
年金が受給できるようになれば、由美子さん自身の国民年金と合わせて約14万円の収入になります。「これにパートを見つけてもう少し上乗せできれば、問題なくやっていける!」……由美子さんは思わず心のなかでガッツポーズしました。
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満を持して夫に突きつけた“三行半”
由美子さんがFPに相談して数日経ったある日の夕食後、意を決して夫に離婚を切り出しました。
すると、夫の茂さんは由美子さんの予想どおり、上から目線でバカにしたように鼻で笑います。「なに寝ぼけたこと言ってるんだ。俺の金がなくて生きていけると思ってんのか?」
しかし、由美子さんは黙りません。冷静に財産分与や年金分割の話をはじめたところ、驚きのあまり口をパクパクさせる茂さん。
「勝手なことを言うな! ど、どうせ財産目当てだろう! これまでの恩を忘れたのか!?」
茂さんは顔を真っ赤にして怒鳴り出しました。由美子さんが話を進めようとしても大声で遮り、まったく話し合いになりません。
その後、由美子さんと茂さんは家庭内別居のような状態が続き、由美子さんは弁護士を探しはじめたところです。
すぐに離婚成立というわけにはいきませんでしたが、由美子さんは思いのほかスッキリしている自分に気づきました。
初めて夫に自分の思いをぶつけられたこと、離婚してもやっていけそうであること、パートを見つけて働き出したことなど、新たな人生に向けて1歩を踏み出せたことに自信がついたようです。
59歳の由美子さんにとって、決して遅すぎるリスタートではないでしょう。
“自分らしい老後”を手に入れるためにも
「人生100年時代」といわれるように、老後と呼ばれる期間はどんどん長くなっています。
老後も、夫婦で穏やかに楽しい時間を過ごせればそれがなによりですが、現実はそううまくいきません。安易に離婚を選択すべきではないですが、金銭面などについてシミュレーションを行い問題がないようであれば、我慢して一緒にいる必要もないでしょう。
誰もがどんな年齢からでも自分らしい人生を送れる、そんな時代になりつつあるのかもしれません。
石川 亜希子
AFP