覚えやすい愛称やキャッチコピーが浸透することは、芸能人にとって喜ばしいことだが、あまりに大きすぎる言葉は、重荷にもなる。桜井日奈子は、2014年に「岡山美少女・美人コンテスト」で「美少女グランプリ」に選ばれ、翌年には全国区のCMに抜擢。一躍“岡山の奇跡”として有名になった。
正直、「私にはありがたい反面、ちょっと大きい言葉でした」と振り返る桜井。そこから10年。キャリアを重ね、27歳になった彼女が「そんなこともありましたねと言えるようになりました」と笑いながら、ありのままの今、そしてこれからへの思いを語った。
◆上京当初、人の目を見るのも怖かった時期も
デビューからほどなくブレイクしたものの、上京当時は街行く人の視線も怖かった。
「みんなから悪口を言われているみたいな感覚になってしまって。たぶんちょっと病んでいたんだと思います。人の目を見るのも怖かったですし、通りすがりに『桜井日奈子ってさ~』と言われている気がして。そんなわけないのに」。
今では俳優業はもとより、バラエティ番組での明るい素顔も人気だが、当初はバラエティも苦手だった。
「最初は緊張して声も高くなっちゃったりして。周りの方も若い女優相手にどう触れていいのか分からなかったと思います。今は自分でボケたりふざけたり、突っ込んでいただいたりする楽しさに気づき始めて、バラエティ番組も大好きです!」。
特に2020年に放送された『その他の人に会ってみた』(TBS)で、「えび大好き女優」としてエビに食らいついてみせた体当たりのロケ映像は、大評判となった。
「平成ノブシコブシの吉村(崇)さんにも『とんでもない女優だ』とイジってもらえて。ロケ中は分からなかったのですが、スタジオですごく笑ってもらえて、自分で言うのもなんですけど、『跳ねた』という初めての感覚でしたね。いまだに吉村さんに会うと、『エビ、食べてる?』と声をかけてもらいます」。
かつて多かった「岡山の奇跡の」との枕詞つきの紹介も、いつの間にか、ただ「桜井日奈子さんです」と紹介されるようになっていた。
◆デビュー10周年の記念写真集では“馬尻”を披露
デビューから10周年。9月6日には、記念写真集の『鴇色』を発売した。写真集自体は3冊目だが、今回は初の水着を披露している。
「ネガティブな意見もあったんです。『なんで脱いじゃうの? 切羽詰まってるの?』って(苦笑)」。
実はこれまで自身の体型にはコンプレックスを持っていた。
「バラエティ番組に出るときでもなるべく肌を隠したり、ボディラインの出ない衣装を選んでいました。
デビューからずっと、もう8年くらい、痩せるために頑張っていたのに、『太った』とか『劣化した』とかいう声が止まなかった。もともとバスケをずっとやっていて、筋肉質なこともあって、どうしても周りの細い子と比べてしまって、落ち込んで……」。
傷ついた時期もあったが、あるときから成果が出るようになったという。
「どうしてこんなに自分の体が嫌いになっちゃったんだろうと、すごく考えました。『ぽっちゃりしたよね』と言われて、どんどんストレスが溜まっていた。なぜ無理して華奢にならなきゃいけないんだろう。だいたい私は一生懸命やっていて、決してサボっていたわけじゃないのに。
それで『何がダメなの? ちょっと筋肉質な自分の体もいいじゃん!』と思えるようになったら、すごく気分が楽になったんです。ボディメイクが楽しくなって、みるみる成果が出るようになりました」。
だから初の水着には「私的には、前のめりでやってみたかったことなんです」と断言。
「いま私、お尻で100キロ上げられるんです。馬のような立派なお尻、“馬尻”だと誉められています。努力の成果を、ぜひ見てもらいたいです。『こういう面もあるんですよ』って。うふふ」と自信の笑みを見せた。
◆放送中のGPドラマに「肩をブンブン回して挑んでいます」
俳優業も好調だ。もともと全国区としては、大東建託の「いい部屋ネット」のCMでブレイクした桜井。その後、舞台『それいゆ』(2016)で芝居の魅力に目覚め、主演映画『ママレード・ボーイ』『殺さない彼と死なない彼女』、配信ドラマ『ヤヌスの鏡』『マイルノビッチ』などでキャリアを重ねてきたが、近年は役の幅を広げている。
「少し前は、お芝居をやっていてもそのことへの評価よりも、ビジュアルに対する意見ばかりが返ってきて、手ごたえがなかったんです。それであまり期待されていないんだなと思ってしまっていました。
でもあるとき、事務所の社長から『自分に期待しないとダメだよ。周りはいろいろ言ってくるけれど、自分のことを自分が一番できると思っていないと、どんどん自分なんかという思考になっていっちゃうよ』と言われて、『確かに』と思うようになったんです」。
今年は『95』(テレビ東京)、『マル秘の密子さん』(日本テレビ)と、地上波ドラマに2クール連続で出演。特に放送中の『マル秘の密子さん』での秘書・千秋は、今の桜井が演じることで豊かさを増している。
「とても面白い役をいただけて、『もっと頑張ろう』と私の糧になっています。実は、去年『君と世界が終わる日に』というHuluでやっていた役を、プロデューサーさんたちに『すごく良かった』と言ってもらって、本作で『千秋という役を作っていたら桜井さんの顔が浮かんだ』と言ってもらったんです。そんなことってあります!? もう本当に嬉しくて。久しぶりの地上波ゴールデン帯のドラマ出演に、肩をブンブン回して挑んでいます」。
◆これから先、もっと楽しみで仕方がない
演技の幅を広げたことで、脇としても立てるようになった。まだキャリアが浅かった頃、同世代の女優さんの活躍を見て「悔しくなることがあった」というが、10年経った今もいい意味でのライバル心は消えていない。
NHK連続テレビ小説、いわゆる朝ドラへの出演も「いつかは」と。2024年前期の『虎に翼』でヒロインを務める伊藤沙莉とは、ドラマ『THE LAST COP/ラストコップ』(日本テレビ)をきっかけに、武田玲奈とともに期間限定アイドルユニット「KBD(きびだんご)ホーリーナイト」を結成したこともある。
「沙莉ちゃんは当時経験値のない私から見ても、すごく面白い女優さんだなと感じていました。『私もいつか!』と思って、すごく刺激を受けていました」。
先輩からの刺激もある。2020年以降、舞台にも精力的に挑んでいるが、昨年出演した『ハロルドとモード』では、長きにわたって日本版の主演を務める黒柳徹子らから大いに刺激を受けた。
「黒柳徹子さん、戸田恵子さん、ベテラン俳優の方々の中に入れるだけで嬉しかったんですけど、生涯求められ続けている黒柳さんとご一緒できたのは本当に大きかったです。91歳ですよ、黒柳さん。本当にすごいです。ご一緒して、私も求められ続ける俳優でいたいなと思いましたし、何より、黒柳さんが楽しそうだったことが印象的でした。
舞台に立てることにキラキラしていて、『もっとこうしたら』『ああしたらもっと面白くなるんじゃないか』とあれほどの大ベテランの方が、前のめりで積極的に作品を作っている。そうした姿を見て、なんて夢がある世界なんだろうと」。
そう言って、桜井自身も目をキラキラさせながら、これからを見据えた。
「20代後半、まだまだです。私、『桜井日奈子が出るんだったら、面白いじゃん』と言ってもらえるような俳優になりたいんです。以前は、どこかでやらなきゃいけないこととして、お芝居をやっていた気がします。でも今は自由な気分になっている自分がいる。
この10年、続けてきたからこそ、バラエティでもお芝居でも、自発的にできるようになってきた。表現する自由度がちょっとずつ高まってきているのを感じます。たぶん20年後はもっと30年後、40年後と、これから先を考えていくと楽しみで仕方がないんです」。
【桜井日奈子プロフィール】
1997年、岡山県生まれ。「岡山美少女・美人コンテスト」で「美少女グランプリ」に選出され2014年にデビュー。翌年、大東建託「いい部屋ネット」のCMでブレイク。「岡山の奇跡」の愛称で呼ばれる。主な出演作は映画『ママレード・ボーイ』『ういらぶ。』『殺さない彼と死なない彼女』『魔女の香水』。現在ドラマ『マル秘の密子さん』に出演中。芸能活動「10周年記念写真集 鴇色』を発売
<撮影/神藤 剛 取材・文/望月ふみ>
【望月ふみ】
ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異。X(旧Twitter):@mochi_fumi