日本のM&A業界、特に「中小企業M&Aの業界」は海外と比較して非常に特殊です。事業承継の選択肢としてM&Aを活用するには、日本のM&A業界の歴史や背景、支援業者の特性を理解しておくことが欠かせません。作田隆吉氏(オーナーズ株式会社代表取締役社長)が、日本におけるM&A業界の歴史や特徴について解説します。
日本のM&Aマーケットの歴史はまだ浅い
日本国内におけるM&Aの報告件数が初めて1,000件を超えたのは、1990年後半のこと。それまでの国内M&A市場は黎明期であったといえます。当時M&Aを支援するサービスはほぼ大企業向けに限られ、外資系・国内系の大手証券会社における投資銀行部門を中心にサービスが提供されてきました。
歴史的に投資銀行業界で提供される大企業向けのサービスは、ファイナンシャル・アドバイザリー(FA)サービスと呼ばれ、M&Aの当事者である顧客の利益を守り、追求する支援を提供するものです。欧米では、投資銀行業界の長い歴史の中で提供されてきたサービスです。
2000年代に入ると会計系Big4ファームでもFAサービスを提供するチームが拡張され、今では一大勢力となっていますが、Big4のFA実務の底上げに際しては、やはり証券会社の投資銀行部門出身者の貢献が大きかったのではないかと思います。今日ではさらにM&Aの裾野が広がり、独立系ファームにおいてもFAサービスが提供されています。
こうしたFAサービスを提供する投資銀行は、今日でもほとんどが大企業を中心としたごく限られた顧客にのみサービス提供をしており、残念ながら多くの中小企業はサービス提供の対象とはなっていません。
他方、中小企業においても事業承継を背景に、「とにかく自分の会社を買ってくれる買い手を探してきてほしい」というニーズが拡大していきました。そして、こうした中小企業のM&Aニーズに応える形で、2010年以降、M&A仲介サービスが急激に成長していきました。
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実は、「M&A仲介サービス」は日本ならではのもの
M&A仲介サービスは、売り手と買い手を中立の立場でマッチングするサービスです。売り手と買い手の双方を顧客として抱えるサービスですから、投資銀行が提供しているFAサービスのような、「特定の当事者の利益を守り、追求する機能」はありません。
なお最近では、なるべく人手を介さずにマッチングをインターネット上で行うM&Aマッチングプラットフォームも存在します。主に、M&A仲介サービスでも取り扱えない小規模M&Aにおいて仲介役を担っており、そのサービス特性はマッチングを主機能とするM&A仲介サービスといってよいでしょう。
このようなM&A仲介サービスは、M&Aマーケットの歴史が浅い日本ならではの特徴的なサービスで、諸外国ではほとんど見られないものです。特に訴訟が身近な欧米では、利益相反関係にある取引当事者の双方を支援するM&A仲介サービスの構造は受け入れられにくいものとなっています。M&A業界の長い歴史を背景に、中小企業に対してFAサービスを提供する業者の数も日本よりはるかに多く、FAサービスが中小M&A支援の受け皿となっています。