仲介サービスの成長は、本当に「日本の文化に合っているから」なのか?
M&A仲介サービスが日本で広まった背景として、日本の文化との相性の良さが挙げられることがあります。具体的には、自己の利益のみならず、M&Aの取引相手や従業員、取引先など他者の利益も重んじる日本の文化には、両者を中立の立場で調整するM&A仲介サービスが適している。中小企業においては、売り手、買い手それぞれが自分の主張を押し付け合う文化は合わない。というものです。果たして本当にそうでしょうか。
M&A仲介サービスは、当事者、特に売り手のオーナーにとって不利益を被るリスクが非常に大きく、デメリットを上回るメリットは正直見当たりません。私は、日本においてM&A仲介サービスが広まった背景は、諸外国と比較した投資銀行業界の歴史の浅さ、層の薄さが大きな要因だと考えています。
一世一代のビッグイベントに臨む売り手オーナーからしてみれば、買い手とのマッチングだけでなく、自分の利益やメリットを考えたプロの支援を受けたいと思うのは当然です。本来、売り手オーナーが求めているのはその支援が可能なFAサービスなのです。
しかし、残念ながら日本においては圧倒的にFAサービスの供給が不足していたところ、M&A仲介サービスがその受け皿となり、広まっていったのです。これだけM&Aが中小企業においても身近になった今こそ、当事者、特に売り手の利益を追求した支援が提供できるFAサービスの普及が求められています。
M&A仲介サービスが抱える売り手オーナーにとってのリスク・デメリットについては、本連載の別の機会に詳細を説明したいと思います。
今日ではM&A仲介サービス間の競争も激化しており、それに伴ってM&A仲介サービスの利益相反構造を原因とするトラブルの報告も増えています。中小企業庁はこうしたトラブル増加に対応すべく、M&A仲介業界に「M&A仲介協会」を組織させて、実効力のある自主規制団体にしていこうと取り組みを始めています。しかし、M&A仲介サービスが本来の役割である仲介役を果たせたとしても、特定の当事者の利益を考えた支援をしてくれるものではないということは、サービス構造上の限界として理解しておかなければなりません。
M&A仲介サービスの利益相反を原因とするトラブルや、M&A仲介協会の取り組みなどについても、本連載の別の機会に詳細を説明したいと思います。
作田 隆吉
オーナーズ株式会社 代表取締役社長