地主と借地人の間で、借地権の譲渡をめぐってトラブルになることがある。借地人が借地権割合で算出した相続税を支払ったことで借地権を主張し、地主の承諾を得ずに勝手に借地権を第三者に譲渡してしまうのだ。地主は古い借地権契約では契約当初に権利金をもらっていない。しかし、地主と借地人が裁判までいかずに折り合いをつけるため、地主はこれまで借地権譲渡対価の10%程度の譲渡承諾料をもらって泣き寝入りすることが多かった。足掛け3年をかけ、もらってもいない借地権利金を取り戻した事例を元国税査察官の上田二郎税理士が解説する。
「使ってないからいいよ」と大昔に善意で貸した土地が…
強くなりすぎた借地人の権利をより柔軟にし、借地による土地の供給増加を図るために「新借地借家法」が平成3年に制定されてから33年が経過した。
土地の賃貸借を規律する法律は、民法の制定時から様々な改正を経て借地人の権利を強固なものにしてきた歴史がある。
本来借地権とは、建物を所有するために土地を借りる権利なのだが、他の不動産と同様に物件性の高いものに変化し、借地権として土地を貸した場合、地主の権利が相当に低くなる現象が生じた。
加えて、相続や贈与の計算の基礎となる財産評価「路線価」が借地権にお墨付きを与えた。路線価図では借地権割合が自用地価格に対して30%から都心商業地では90%にもなる。
昨今では借地権を新たに設定する場合には、その対価として権利金の授受がごく普通に行われていると言うが、戦前から貸している土地も多い。
特に関東圏では関東大震災で多くの建物が倒壊、焼失し、この救済のために施行した「借地借家臨時処理法」が借地の供給を増やした。
大昔に「使ってないからいいよ」と善意で貸した土地。当時は権利金に関する法律もなかったために権利金の授受はない。
「更地にして返してね」との口約束で少額な地代。経済成長とともに土地神話で地価が上昇しても、簡単に地代を上げることができず低廉地代のまま。借地人は「借り得」だ。
借地の家を相続するケースも増えてきたが、当初契約時に権利金の授受があった土地も、なかった土地も同等の評価額で本当に良いのか。
とある地主が直面した借地権トラブルを事例に、時代に取り残された借地権問題について考えたい。
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地主の承諾なしに借地権を譲渡?
国税庁が公表する路線価図には借地権割合が表示されている。
相続した建物が借地上にあれば、その自用地価格(自分の土地である場合の評価額)に借地権割合をかけて評価額を算出する。路線価による評価額が1億円で借地権割合が70%なら、借地権評価額は7,000万円になる。
この借地権割合がひとり歩きしているように思えてならない。
「相続税を納めたのだから自分のもの」と、地主の承諾を得ずに借地権を譲渡する者が現れ、地主とトラブルになっている。
ここで理解を深めるために、借地権の変遷を簡単におさらいしたい。
借地権は、建物を所有するために土地を借りる権利だ。大正10年に制定された借地法(旧借地法)では、借地契約期間(法定期間)が満了しても、未だ借地上に建物が朽廃せずに存続していれば、借地人は地主に対して更新請求をすることができるとされ、地主が更新に応じない場合、借地人は地主に対して建物の買取請求権を行使できることとした。
これによって、地主は建物を買い取りたくない場合には契約を更新せざるを得なくなった。
その後、昭和16年に旧借地法の一部を改正し、借地期間が満了しても建物が朽廃せずに残っていれば、地主がその土地を自ら使用するなどの正当な事由がない限り、借地契約は自動的に更新される「法定更新制度」が導入された。
この改正によって、借地権の物権化が強く意識されるようになり、地主はいったん借地権を設定すると、土地を取り戻すことが事実上困難になった。
さらに、昭和41年には地主の承諾に代わる裁判所の許可制度が導入され、借地権の譲渡または転貸を地主が承諾しない場合でも、裁判所が地主に代わってその譲渡に許可を与えることができるようになった。
これによって借地権の物件化がさらに進み、いったん土地を貸すと相続などによって借地権者が代わっても地主側から借地契約の解除をすることができず、結果として半永久的に土地が戻ってこないことになった。
このように、土地の賃借権を規律する法律はさまざまな改正を経て、強固になりすぎた借地人の権利をより柔軟にするべく、平成4年8月から現在の「借地借家法」が施行されるに至った。