大人の女性にとって、永遠のロールモデルともいえる小泉今日子さんと、80〜90年代カルチャーを象徴するクリエイターである岡崎京子さん。そのふたりのキャリアや表現を通じて新たな女性の生き方を探った、甲南女子大学教授・米澤泉さんの書籍『小泉今日子と岡崎京子』。その概要とともに、年月が経っても色あせることのない、岡崎京子作品の一部を紹介します。

ふたりの「キョウコ」を結びつけるものとは?

小泉今日子さんと、岡崎京子さん。『大人のおしゃれ手帖』の読者世代にとっては、いうまでもなく、10代の頃から見てきたこのふたり。熱狂的なファンの人、青春時代の大切な思い出となっている人、人生の転機に力をもらった人……特別な思い入れを抱いている人も多いのではないでしょうか。一方で、そのふたりを結び付けて考えたことがある人は、それほど多くはないかもしれません。

ファッション文化論と化粧文化論を専門に、世の中で「取るに足りない」と思われてきた事柄から、社会の本質をすくいとってきた甲南女子大学教授の米澤泉さん。今年7月に刊行した著書『小泉今日子と岡崎京子』は、「アイドル」と「少女マンガ」という、それぞれのジャンルでひとつの時代を築いたふたりの「キョウコ」に焦点を当てつつ、80年代から現在に至るまでの女性たちの生き方をたどった一冊です。

米澤さんは、ふたりの功績について、「20世紀末に岡崎が種を蒔き、21世紀に小泉が『別の女の生き方』を開花させたのではないか」と考えたそう。時代とともに、女性たちの生き方も変化し、多様化していく中で、自分はどんな大人を目指し、どうやって年齢を重ねていけばいいのか……。決まった答えがないだけに、生き方に迷っている「大人のおしゃれ手帖」読者世代も少なくないはず。本書でひも解かれる小泉さん、そして岡崎さんの提示してきたものは、そうした大人世代の悩みを解消するヒントや、自分の「好き」を貫くための後押しとなってくれそうです。

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ステレオタイプな女性像を打ち破ってきたふたり

小泉さんと岡崎さん、一見、接点のなさそうなこのふたりの共通点のひとつが、ファッション誌との関わりが深かったこと。これは、長くファッション誌の研究をしてきた著者だからこその着眼点といえそうです。

たとえば、80年代のティーンエイジャーにとってはバイブル的存在だった、雑誌『Olive』。小泉さんは、まだアイドルがファッション誌に出ることが少なかった時代から同誌にたびたび登場し、DCブランドを軽々と着こなす「おしゃれアイドル」のイメージを築いていました。さらに『アンアン』では、モデルとして出るだけでなく、アイドルとしては画期的な、エッセイの連載もスタート。SNSの普及した今では当たり前のことですが、芸能人がみずからの言葉で思いを直に発信する…というのは、当時はめずらしいことだったはず。そのことからも、小泉さんが型破りなアイドルであったことが分かります。

一方、岡崎京子さんは小学生の頃に、少女漫画誌に残る萩尾望都の名作『ポーの一族』に衝撃を受けて、マンガ家を志します。高校生時代には、『花とゆめ』にも投稿したそうですが、Cクラスという結果に。マンガ家としてのキャリアは王道の少女マンガとは少し異なる、読者投稿誌の「ポンプ」という場から始まっています。
その後、サブカル誌や青年コミック誌、一般誌での掲載を経て、宝島社の『CUTiE』でも執筆するように。『CUTiE』では『ROCK』や『東京ガールズブラボー』、『リバーズ・エッジ』、『うたかたの日々』といった代表作を連載し、80~90年代のポップカルチャーを切り取ってきました。

そうしたキャリアから読み取れるのは、ふたりがともに従来のステレオタイプな「アイドル像」「少女マンガ家像」を打ち破り、独自のスタンスでキャリアを積んできたこと。振り返ってみると、80〜90年代はまだ保守的な価値観が蔓延していた時代です。そんな時代に、女性の新しい生き方を提示していたからこそ、女性たちはふたりに憧れ、熱狂的に支持してきたのかもしれません。