都会から“屋久島の森”に移住した独身女性のリアル「移住費用は全部で4万円くらい」

 鹿児島市から南に約135km。樹齢2000年代~7200年とも言われる縄文杉や九州最高峰の宮之浦岳(1,936m)など、太古の大自然が今もなお残り、日本で初めて世界自然遺産にも登録された「屋久島」。

 そんな神秘の島に一人で移住し、山小屋でのたくましい暮らしぶりをYouTubeチャンネル「すずの田舎暮らし」(サブチャンネル「すずの音チャンネル」)やSNSで伝えているのが、独身女子のすずさん。なぜ、安定していた都会暮らしをやめて屋久島へ移住したのか。その理由や暮らしの実情などを聞いた。

◆移住する前は「マッサージ店を運営」

――屋久島に移住される前は、東京をはじめ関東各地で長年暮らしていたそうですね。 どんなお仕事をされていたのですか?

すず:自宅兼サロンの形式でハワイアン式マッサージ店を運営していました。それ以外の仕事も平行していた時期もあったりしたのですがマッサージ業は10年くらい続けてきました。

――マッサージ店の運営はうまくいっていましたか?

すず:順調でしたし、「お店を大きくしていきたいな」という気持ちもありました。

―—それ以外にどんなお仕事をされていましたか?

すず:アパレル店員をしたり、人形劇の劇団で働いたりもしていました。小学校を巡業する劇団で6人でまわっていたのですが、人数が少なかったので仕込みも演技も全部自分たちでしていました。

◆「一度決めたら突進していく性格」ゆえに

――マッサージ店が軌道に乗っていた上、他にもいろいろなお仕事をされて充実していたと思いますが、なぜ屋久島に移住することになったのですか?

すず:移住する前に、屋久島は何度が来たことがありました。最初に来たのは今から8年ほど前だったのですが、そのときに『縄文杉トレッキング』を体験したりしてすごくいいところだなって。その後何度か訪れるうちに「ここで暮らしてみたい」と思うようになったんです。一度決めてしまうと突進していってしまう性格で…。

――移住しようと決めてからは、実際に移住するまで早かった?

すず:一昨年の12月に屋久島に家を探しに来たのですが見つからず、昨年の2月に「フリアコ(フリーアコモデーション/宿泊施設の仕事をする代わりに、無料で寝食を提供してもらう仕組み)」を利用して移住したのが最初です。そこで1ヶ月間お世話になっている間に尾之間(おのあいだ)という集落で築80年の空き家の一軒家が見つかり、引っ越しました。

◆移住してから住んだ場所は3ヶ所。今は山小屋に

――一軒家の家賃はどのぐらいでしたか?

すず:家賃はかかりませんでした。部屋を片付ける代わりに、無料で住まわせていただきました。ただ、その一軒家に住んでいた期間も短くて、昨年の3月頃からゆるゆると次に住む場所を探し始め、今住んでいる山小屋に来たんです。なので、屋久島に移住してから住んだ場所は3ヶ所、トータルで1年半ぐらい経っていますね。

――フリアコを利用したとのことですが、屋久島には多い?

すず:多くはないです。観光業が盛んなので住み込みの仕事で屋久島に来る人もいます。私は地元の方達と仲良くさせていただいていて、「家を借りたいんだけど、いい場所がなくて……」などと相談しているうちに今の家を紹介してもらいました。

――地元の方々とはどこで知り合ったのですか?

すず:屋久島に移住したばかりの頃、ボランティアで農園にお手伝いをしに行っていたのですが、そこで知り合いました。島のことを地元の方々に教わりたいと思って始めたのですが、色々なことを教えてくれて助かりました。

◆気になる移住費用は「わずか4万円」

――ちなみにYouTubeチャンネルで拝見したのですが、東京から屋久島に移住した際にあまり費用をかけていませんよね?

すず:全部で4万円ぐらいです。たぶん交通費が安い時期だったと思うのですが、交通費が片道2万円。ゆうパックとかで荷物を送るので2万円かかりました。荷物は着るものだったり最低限必要なものだけに絞って、とにかく安く済ませようと(笑)。

――東京での暮らしが嫌になったわけではない?

すず:マッサージ店を頑張って続けていた成果でリピーターのお客様も多くつきましたし、仕事を辞めるイメージはなかったです。だけど、屋久島で暮らすほうが安心感があるんじゃないかと。私の性格が繊細ということもあるのですが、東京だと街を歩いているときに「人にぶつかるんじゃないか」「気をつけて歩かなきゃいけない」と常に考えてしまっていて…。

 満員電車もストレスでしたし、大きな音にビックリしちゃうんです。その点、屋久島は人が少ないので呑気に歩けますし、あれこれ気にしなくていいので楽だなって。

――屋久島への移住に対するご家族の反応は?

すず:両親とは疎遠なこともあり、姉に「引っ越すよ」と伝えたぐらいです。もともと人に相談することが苦手で、何事も自分一人で決めてしまうんです。仲のいい友達にも全く相談していませんでしたし、屋久島への移住が決まった後に「来月から屋久島に住むんだ」と報告したら驚いていました。普段から事後報告が多くてビックリされることが多いです。

――長年会えていなかったお父さんと再会された動画も拝見しました。

すず:たまたま父親が私のYouTubeチャンネルを見つけたみたいで、連絡をくれたんです。まさか動画をきっかけに再会することになるとは思ってもみなかったのですが……。再会した後はたまに連絡をとっていますよ。

◆島という一つの“大きな家”に住んでいる感覚

――屋久島に移住されて約1年半とのことですが、東京との暮らしの違いがいろいろありそうですね。

すず:島暮らしをしていると、街やスーパーに行ったときに必ず知っている人に会います。連絡しなくても会えるっていう気軽さやいつもいる安心感があって、島という一つの“大きな家”に住んでいるような感覚があるんです。都会だと道を何回通っても友達には会わないですし、何かちょっと冷たい感じというか、他人に無関心っていう感じがしてしまって…それが嫌だったのかもしれません。

――ただ、屋久島は日本に数ある離島のなかでも人口が多いほうですよね?

すず:1万1千人ほどいるので、多いほうだと思います。屋久島には10数か所の集落が存在すると聞いたことがあるのですが、集落と集落の間の距離がけっこうあるんです。私がいる場所は人口が少ないのであまり人に会いません。

◆「とんでもなく大きな蚊」が入ってくることも

――今住んでいる山小屋の住み心地はいかがですか?

すず:森の中に住んでいる感じです。すぐそばに川が流れていますし、アニメでよく見るような“森の中の家”という感じです(笑)

――すずさんの暮らしぶりは、スタジオジブリの作品に出てきそうな世界観だなと思いながら動画を見ていました(笑)。ちなみに、屋久杉が生えている場所にも近いですか?

すず:屋久杉がある場所は標高が高いので、自分が住んでいる場所からは離れていますね。

――森の中なので、虫なども多そうですね。

すず:虫はすごく多いです。蚊取り線香を使ったり、虫取り網でつかまえて外に追い出したり……。とんでもなく大きな蚊が入ってきたりしますしね。あと、ヘビやヒルなんかも多いです。クマやイノシシといった襲ってくるような動物は出ない地域なのですが、普通にサルがいたりしますよ(笑)。あと、聞いたことがない鳴き声を出す鳥もたくさんいますし、特に朝は鳴き声が周囲から聞こえてきて賑やかです。

◆犬を飼ってよかったなと思う

――サルが襲ってくるようなことはないですか?

すず:食べ物を手に持っていたり、こっちが何かをしない限りは襲ってくることはないですね。最低限の注意は払うように心がけています。

――ちなみに、すずさんのYouTubeチャンネルやSNSに出てくる愛犬の「ロン」ちゃんですが、屋久島に来てから飼っているのですか?

すず:そうです。屋久島犬のミックスで雑種みたいな感じなのですが、屋久島犬の血が多めと聞いています。尾之間の一軒家に住んでいるとき、大家さんの家に犬が生まれて、「飼ってみたら?」と言われたんです。大家さんが家で飼っていいと言ってくれたので、「だったら飼おうかな」と。

 ただ、飼うにもお金がかかりますし、最初は少し悩んでいたのですが、大家さんに「一人で暮らしているんだから、犬でも飼え!」って言われて(笑)。ロンがいてくれると心強いですし、今では飼ってよかったなと思っています。

◆薪割りも釣りもDIYも、移住してから初体験

――食べ物はどこで買っているのですか?

すず:車でスーパーに行って買うこともあるのですが、農園でバイトをしている繋がりで野菜や魚がもらえたり、あとは海に魚を釣りに行ったり……。冬は捕れないことも多いですし、野菜の収穫量も少なかったりするので買うこともあるのですが、やはりお金もないので物々交換をしたりしています。農園のスタッフの方々は優しくて、野菜や果物をたくさんくれるんです。あと、農園がお付き合いのある他の場所からもらってきたものをお裾分けしていただくこともあります。

――屋久島に移住される前から釣りの経験はありましたか?それと、山小屋の補修をしたり、薪を割ったりもされていましたが、そういったことも以前から経験があった?

すず:どれもしたことがなくて、こっちに来てから地元の方に釣りに連れていってもらったり、自分で家具の補修をしたり…やらざるを得ないっていう状況なのもありますが、移住してから始めたことばかりです。山小屋の大家さんが「自由にDIYをしてもいいよ」と言ってくださったので、キッチン棚を補修したり、いろいろ頑張っています。

◆家にエアコンやお風呂がないため、「川風呂はルーティン」

――川風呂に入ったりもしていますよね。

すず:家にエアコンやお風呂がないということもあって、川風呂はルーティンです。それと、農園で働いていると熱中症になってしまうんじゃないかというぐらい暑いので、とにかく体を冷やさないといけません。仕事の休憩中や仕事が終わった後も川風呂に入りますね。見た目は川で遊んでいるように見えるかもしれませんが、私にとってはお風呂なので。

――森の中だと時間帯によっては涼しそうですね。

すず:川が近いので冷気がきます。でも、夏はやっぱり暑くてしんどいですしアイスノンを使って寝たりしています。ただ、春と秋が短くなった都会の気候に比べて屋久島は四季がまだ残っていて、急激に暑くなったり寒くなったりはしません。体を徐々に慣らしていけるんです。

――寒い時期のお風呂はどうされていますか?

すず:ちょっと場所は遠いのですが、海の中に湧き出ている珍しい温泉があるのでそこに行ったり、以前住んでいた集落に300円で入れる温泉があるのでそこへ行ったり、友達の家に行ってお風呂をかしてもらったりしています。屋久島の冬は本島よりは寒くないのですが、山の高いところではマイナス何十度にもなったりしますし、そこから吹き降ろしてくる風が当たる時は結構冷えます。

◆将来的には家も建てたい

――東京に戻りたいという気持ちが芽生えることは?

すず:最初から「一生、屋久島で暮らす」みたいな気持ちで移住したんです。実際住んでみても居心地がよくて落ち着きますし、毎日充実しています。ただ、同じ時期に屋久島に移住した友人は、気持ちが都会に向いている感じがして……。2~3年で島を出ていく人が多いという話も聞きますが、ひょっとしたらそういう時期なのかなと。

 

 ただ、私はずっとここにいたいと思っていますし、将来的には家も建てたいですね。今は家賃無料の借り暮らしですが、この先も屋久島にずっと住み続けていくため、自分の家がほしいんです。今は収入も少ないですし生活が不安定ですが、少しずつ暮らしのグレードを上げていきたいですし、その過程をYouTubeチャンネルでお伝えしていければといいなと思っています。

<取材・文/浜田哲男>

【浜田哲男】

千葉県出身。専修大学を卒業後、広告業界を経て起業。「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」の取材をはじめ、複数のスポーツ・エンタメ・ニュース系メディアで連載企画・編集・取材・執筆に携わる。X(旧Twitter):@buhinton