◆ロシアのウクライナ侵攻から逃れ来日した女性
戦争で傷ついたウクライナ避難民の心を救ったのは、日本のアニメやゲームだった…。X(旧ツイッター)やインスタグラム等にコスプレ写真を投稿し、今、人気急上昇中の在日ウクライナ人女性、アニャさんにインタビューした。
秋葉原にある弁当屋の前に、長蛇の列。この数日前、アニャさんがウクライナの伝統的な飲み物「クワス」の無料試飲会を行うと、彼女のXで告知。試飲会では、メイド服を着たアニャさんがクワスを手渡ししてくれ、アンケートに答えれば一緒に写真を撮ることもできるとのことで、開始時間前から既に数十人もの人々が並んでいたのだ。
アニャさんは、ロシアによるウクライナ侵攻を逃れ、2022年の8月に来日。Xで日本語を使っての投稿を始めたのは、そのしばらく後だったが、この数か月でフォロワーが急増し、現在は9万5000のフォロワーを持つ。ここ最近は投稿が数十万単位で表示されることも多く、最もバズった投稿は、本稿執筆時点で約880万回表示されるなど、ネットアイドル化している。
◆「再現力すごい」コスプレ姿が話題に
アニャさんの人気の理由の一つがコスプレだ。『ニーア オートマタ』の2B、『ファイナルファンタジーVII』のティファなど、日本の人気ゲームやアニメのキャラクターのコスプレをして、その写真をXに投稿し好評を得ている。
180センチという高身長を活かし、人気ゲーム『バイオハザード ヴィレッジ』の超長身キャラクター、ドミトレスク夫人のコスプレをしたところ、「もう本物じゃないっすか」「再現力すごいです」とフォロワー達から絶賛され、ネット媒体でニュースにもなった。
◆ロシア軍の空爆で眠れない日々が続いて
そんなアニャさんが日本で生活するようになったきっかけは、やはりロシアによるウクライナ侵攻だった。
「戦争が始まった頃、私は故郷のオデーサ(ウクライナ南部の都市)に住んでいました。最初は避難したくないと思っていましたが、ロシア軍の空爆が激しくて眠れないような日々が続いたこと、職場のあるオデーサの港が爆撃されたこと、自宅近くにもミサイルが落ちたことから、精神的に苦しくなって、国外へ避難することにしたのです」(アニャさん)
避難民として、日本に来たアニャさんであったが、異なる言語や慣れない異国での生活に苦労したという。当初、アニャさんの母親も一緒に来日したが、うまく適応できずに帰国してしまったとのことだ。また、ロシアによる激しい攻撃を受け続けている祖国のことを思うと、心が痛んだという。そんな中、アニャさんは元々好きだった日本のアニメやゲームのコスプレをしようと思いついたのだった。
◆ウクライナでも人気の日本のアニメ作品
「日本のアニメに触れたのは、5歳の頃に『セーラームーン』に観たのが最初でした。当時、セーラームーンはウクライナの子ども達に大人気で私も大好きになりました。私の家のテレビはソ連時代の古いテレビで、白黒画面で観てたのですけど(笑)。その後、高校や大学で技術系の学科に進んだのですけど、同級生は男性ばかりで、彼らは日本のアニメやゲームが大好き。私も彼らと一緒にいろいろ話をして、いわゆる『オタサーの姫(オタクサークルの姫)』みたいな状況だったのです。それで、さらに日本のアニメやゲームについて、いろいろ知るようになりました。特に好きな作品?そうですね、『アキラ』や『エヴァンゲリオン』、『GANTZ』等が好きです。最近の作品では、『葬送のフリーレン』や『ダンジョン飯』、『ぼっち・ざ・ろっく!』等がウクライナでも人気があります」(アニャさん)。
日本のアニメ・ゲーム文化に親しみ、SNSでの人気も高まっているアニャさん。一方で、やはり、ウクライナへの思いも強い。「私のフォロワーの皆さんに、ウクライナの文化を知っていただけたら嬉しいです。今日は、ウクライナの伝統的な飲み物のクワス*の試飲会をしました」(同)。
筆者もクワスを御馳走になった。アニャさんが「ビールとコーラとパンと乳酸菌飲料の中間の様な味」と言っていた通りの味で、ほんのりと甘く、なかなか美味しかった。試飲会では、募金も集められ、ウクライナ人道支援のために寄付されるとのこと。恐らく、多くの日本人にとって、ウクライナの状況はテレビの向こう側の出来事なのだろうが、アニャさんの発信や活動が、ウクライナをより身近なものにしてくれるのかもしれない。
<取材・文/志葉玲>
*通常、クワスには微量のアルコールが含まれているが、この日の試飲会で配られたクワスのアルコール度数は1%未満であり、参加した人々にも、あらかじめ微量のアルコールが含まれている旨は伝えられていた。