ついにドジャースの大谷翔平が、待ち焦がれたポストシーズンの大舞台に立つ日がやってきた。
打者一本で迎えた移籍1年目の今季は、2年連続自身3度目となるMVPの当確ランプを灯らせている大谷。もちろん苦しんだ時期もあったが、シーズンを通じて自慢の打棒を爆発させ、シーズン途中からは核弾頭としてドジャースを両リーグ最高勝率に導いた。
ナ・リーグの第1シードを獲得したドジャースは、現地5日(日本時間6日)から始まる地区シリーズに登場。対戦相手は、ワイルドカードシリーズでは強豪ブレーブスを撃破した同地区のパドレスだ。先に3勝したチームがリーグ優勝決定シリーズに進むライバル対決を展望する。
◆現地では「パドレス優位」の声も
レギュラーシーズンではドジャースがパドレスに5ゲーム差をつけて地区優勝を飾ったが、シーズン終盤の戦いぶりはパドレスが盤石だった。そういったこともあり、現地アメリカでの下馬評はパドレス優位という声が目立つ。
実際にMLBの公式サイトでは、両チームの戦力をポジションごとに比較した記事を配信しているが、ドジャースのMVPトリオ(大谷、ベッツ、フリーマン)に敬意を払いつつも、「このシリーズはパドレスのために用意されたように感じる」「激闘と感動に満ちたこのシリーズで、パドレスは投手力の強みを発揮し、ライバルを撃破するだろう」と分析し、パドレスが勝ち進むと予想している。
同記事にある通り、ポストシーズンでは何より投手力が重要視される。パドレスはシーズン防御率が両リーグ12位の3.86と平均をやや上回る程度だったが、後半戦に限ればリーグ4位の3.38と、シーズンが進むにつれて投手力は強固なものになっていった。
◆ドジャース先発陣の防御率が崩壊状態に…
一方で、投手陣に大きな不安を抱えているのがドジャースだ。シーズン防御率3.90はパドレスと変わらないが、後半戦は4.11とやや右肩下がり。さらに9月に限れば4.58という数字が残っている。特に先発投手陣は9月の月間防御率が5.80で、故障者の多さも手伝って“崩壊状態”といえるだろう。
そんなドジャースのエースとしてパドレスとの初戦マウンドに登るのが山本由伸だ。
昨年オフにドジャースと大型契約を結んだ山本は、新天地でも開幕から好投を続けていた。ところが右肩腱板損傷で6月に戦線離脱。約3か月後に復帰したが、まだ万全の状態とはいえず、前半戦ほどの安定感を見せられていない。
今季はパドレスに対しても2試合で防御率12.00と打ち込まれており、期待以上に不安がある中でのポストシーズン初登板となりそうだ。
その山本と対峙するパドレスの先発は右腕のディラン・シース。落差の大きいカーブを武器に、特に後半戦は防御率2.66と抜群の投球を披露し、チーム最多の14勝を挙げた。短期決戦では初戦を制して勢いをつけるのが定石。両右腕の出来がシリーズの行方を左右する可能性は高いだろう。
◆2戦目は「大谷VSダルビッシュ」の名勝負に期待
また、初戦を落としたチームにとって絶対に勝たないといけないのが2戦目だ。ドジャースはジャック・フラーティ、パドレスはダルビッシュ有を先発マウンドに送り込む。
フラーティは7月下旬にタイガースからトレードでやってきたが、故障者が相次いだローテーションを支えたまさに救世主と呼べる存在だ。ドジャースの打のヒーローが大谷なら、後半戦の投のヒーローはフラーティだった。
一方のダルビッシュは、山本とほぼ同じ約3か月間を負傷者リストで過ごし、9月上旬に復帰したばかり。ただし、復帰後は5試合に投げて3勝0敗、防御率3.55と上々の成績を残している。
そのダルビッシュと大谷の直接対決は日本だけでなく、現地でも大きな注目を集めそう。ポストシーズンの大舞台で、日本ハムの新旧スターが初めて相まみえる数打席は、後世に語り継がれる名勝負になることを期待したい。
◆ベッツとフリーマンの活躍が鍵となる
この試合に限らず、ドジャースにとっては、やはり大谷の活躍が勝敗に直結することになりそうだ。ただし、シーズン終盤の打棒を見る限り、まともに勝負をしてもらえない可能性が高いだろう。
大谷の直後にはムーキー・ベッツとフレディ・フリーマンという大打者2人が控えているものの、ベッツは過去2年のポストシーズンで通算25打数2安打(打率.080)、0本塁打、1打点と低調。フリーマンも昨年のポストシーズンで10打数1安打に抑え込まれていた。
今季のレギュラーシーズンも2人はやや物足りない成績で終えており、一戦必勝のポストシーズンでは大谷を歩かせて、ベッツ、フリーマンと勝負する選択をする可能性も十分に考えられる。
◆“大谷の足”も脅威に
ただ、そうなるとパドレスにとって脅威となるのが大谷の足。特に後半戦は凄まじい盗塁成功率を記録し、日本人選手では歴代最多となる59盗塁をマークした。大谷を歩かせることは、二塁打、三塁打を打たれることを意味すると言っても過言ではない。
走者・大谷に立ち向かうのは、日系4世の捕手カイル・ヒガシオカ。ワイルドカードシリーズでは2本塁打を放つなどラッキーボーイ的存在ではあるが、今季の盗塁阻止率は20.0%でリーグの平均以下だった。大谷を安易に歩かせ、簡単に盗塁を許すようならベッツやフリーマンを目覚めさせてしまう可能性も十分あるだろう。
ブレーブスに2連勝し、勢いに乗るパドレスと、5日間の休養明けでフレッシュな状態のドジャース。ライバル同士によるガチンコ対決は果たしてどんな結末を迎えることになるだろうか。
文/八木遊(やぎ・ゆう)
【八木遊】
1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。