中小M&Aガイドラインに実効性を
さる2024年8月30日に中小M&Aガイドライン第3版が公開されました。
今回の改訂でもM&Aの当事者の利益を守ることを目的として、M&A支援業者に対して求める指針が追加で定められました。昨今メディアで多く取り上げられている、売り手オーナーの経営者保証に関する指針なども新たに示されました。M&A仲介サービスの利益相反を原因とした過去のトラブル事例などを参考に、正しい方向で改訂が進んでいる印象です。
ただその名称が示すとおり、同ガイドラインは法規制ではありません。仮に遵守をしなくとも、M&A支援業者に重大な罰則がないのが実態です。M&A支援業者は同ガイドラインを遵守していなければ国のM&A支援機関として登録ができず、顧客はその業者を利用してM&Aを行っても国の「事業承継・引継ぎ補助金」を申請することができません。しかし、限られた予算と採択基準の不透明さも相まって補助金が広く活用される状況には至っておらず、罰則としての効果は限定的です。
業界の実務を見渡せば、残念ながら同ガイドラインを遵守していないM&A支援サービスの事例が散見されます。次々に新しい指針が追加されていくなか、同ガイドラインが実効性を持って業界実務を牽引しているとは言い難い状況でしょう。
中小M&A業界のルール作りにおいて、いま最も求められるのはM&A支援業者に対する罰則規定です。一足飛びに法規制に基づく罰金や業務停止、ライセンス取消しなどを導入するハードルは高いと思いますが、例えば同ガイドラインを遵守しない業者名を公表するなどの対応はすぐにでもできるはずです。中小企業庁においても、抜き打ちでM&A支援サービス利用者へヒアリングを行うなど、より積極的にサービス提供実態の把握に努めることが求められます。
業界の健全化に向け、今こそ同ガイドラインの実効性をいかに担保するか真剣に議論が行われるべき時です。
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業界健全化が実現されたとしても、M&A仲介は「中立の立場」でのサービス
仮に中小M&AガイドラインやM&A仲介協会の取り組みが功を奏し、中小M&A業界の健全化が進んだとしても、M&A仲介サービスはあくまでも中立の立場で売り手と買い手をマッチングするサービスであるということを理解して活用しなければなりません。そうでなければ、利用者の「自分のメリットを考えた支援をしてほしい」というニーズと、M&A仲介が提供できるサービスの限界との間に大きなギャップが生じてしまいます。
サービス構造に起因する、売り手にとっての仲介サービスのデメリットについては、次回「FAと仲介の違い」において詳細を解説します。
作田 隆吉
オーナーズ株式会社 代表取締役社長