ロサンゼルスの大企業で働く3人の女性が、力を合わせて横暴なハラスメント社長に復讐する痛快なミュージカル・コメディ『9 to 5』。仕事と家庭の両立に奮闘するシングルマザー・ヴァイオレットを演じる元宝塚歌劇団花組トップスター・明日海りおさんに、初日を目前に控えた今の心境を尋ねました。

ライブのような楽しさを味わえる、エネルギッシュな楽曲も魅力

10月6日より上演される『9 to 5』は、音楽界の“LIVING LEGEND”と称されるドリー・パートンが手掛けたミュージカル。2009年にブロードウェイで上演され、トニー賞やグラミー賞にノミネートされた、歌あり、ダンスあり、笑いありの人気作です。稽古も佳境に入り、インタビュー前日にはオーケストラを入れての通し稽古を行ったばかりという明日海りおさんに、まずはその手ごたえから尋ねてみると……。

「今回の作品は展開がとてもスピーディなので、昨日までは演者もスタッフさんも段取りを体に入れるだけで精一杯でしたが、昨日の通し稽古ではようやくオケの皆さまとも息が合ってきて。演者もお互いの息を感じながらリラックスしてお芝居ができて、『9 to 5』の世界を楽しく生きている感覚を味わえました」

痛快なコメディとしての楽しさはもちろん、それぞれの登場人物に乗り越えるべき課題があり、新しい一歩を踏み出していく過程がしっかり描かれるのも、本作の見どころです。

「私が演じるヴァイオレットは仕事のできるベテラン社員。家ではシングルマザーとして息子を守り、会社では男社会のなかで身を粉にして働いている女性です。ずっとひとりで踏ん張ってきた彼女が、ドラリーとジュディというふたりの女性と意気投合したのをきっかけに、お互いに足りないところを補いながら、力を合わせて会社を改革していく……。その変化も素敵だなと思います」

80年代に大ヒットしたドリー・パートンによるテーマ曲「9 to 5」をはじめ、エネルギッシュな楽曲の数々も、明日海さんが本作のオファーを受ける決め手のひとつに。

「アップテンポなカッコいいナンバーから、登場人物が感情を吐露するしっとりしたナンバー、温かいデュエットソングまで、どの曲も歌っていて楽しくて。お客さまにも、ライブに来たような楽しさを味わっていただけると思います」

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クラシックな王道ミュージカルの後だからこそ、ポップなコメディを

本作のみならず、毎回異なるキャストとスタッフで構成される舞台のカンパニー。雰囲気づくりで意識しているのは、「自分のやるべきことに誠実に取り組むこと」だと話します。

「台詞が体に入っていない段階でも、本当に心を込めて演じる。そうやって真っ先にスイッチを入れることで、みんなも『真剣モードだな』と敏感に感じ取ってくれて、稽古場の温度が上がっていく。そうやってカンパニーの雰囲気もできあがっていく気がします」

おのずと次の作品が決まっていた宝塚在団中とは異なり、退団後の今は、みずから仕事を決め、キャリアを重ねていく必要があります。今の明日海さんはどのような基準で、出演作に臨んでいるのでしょうか。

「在団中のように次の作品が決まっていることは、安心でもあるんです。今はそうではないので、お話をいただけるだけで嬉しくて。ただ、そのなかでも意識しているのは、似通った作品が続かないこと。『9 to 5』の前に出演していたのが『王様と私』というクラシックな王道のミュージカルだったので、次は設定も人物像も異なるポップなコメディをやりたかったんです。それならいつも見てくださっている方も、『今度はこういう感じなのね』と楽しめると思うので。いろいろな役に挑戦するなかで、『私におまかせください!』と言えるような役に出会えたら嬉しいですし、新たな引き出しが増えるのも嬉しい。コメディでも悲劇でも、『こういう役がぴったりだね』と言ってもらえるところまでやりたいです」