毎年110万円までの贈与には税金がかかりません。また控除を受けるための手続き等も不要なことから、広く活用されています。しかし、実際には「年110万円以内」でも課税対象とされるケースが少なくないとか……いったいなぜなのでしょうか。具体的な事例をもとに、生前贈与が否認されないためのポイントをみていきましょう。多賀谷会計事務所の宮路幸人税理士が解説します。

仲睦まじいA家のもとに“なぜか”税務調査が… 

こんなのただの“庶民イジメ”ですよ――

苦い顔でこう話してくれたAさん(49歳)は、地方都市の中小企業に勤めるサラリーマンです。パート勤めの妻Bさん(48歳)と、17歳の息子と3人で暮らしています。Aさんの年収は約550万円で、パート勤めのBさんの収入をあわせると世帯年収は650万円ほど。

Aさんの両親は3年前に母が、その翌年に父が亡くなっており、Aさんが実家を相続しました。Aさんには兄がいるものの、その兄は仕事で海外に住んでおり、「親の面倒を看てもらう代わりに相続は放棄するから」と、両親の遺産はすべてAさんが相続していました。

A一家は住居費用の負担がなく、またAさんの両親の遺産もあることから、金銭的な不自由を感じたことはありませんでした。また、年に1度はA夫妻共通の知り合いが営む沖縄のゲストハウスへ旅行に行くなど、家族仲もよかったそうです。

そんなある日、Aさんのもとへ税務署から電話がかかってきました。聞くと、「2年前に亡くなったお父さまの相続税の調査に伺いたい」とのこと。

相続税の申告はとっくに済ませていたのに、なぜいまになって税務署から……? 不審に思いながらも断ってなにか指摘されても面倒だと、税務調査を承諾することに。

そして調査当日、2人の税務調査官が来訪しました。和やかな雑談からはじまり、徐々に警戒心もほぐれてきたところ、ひとりの調査官から質問が。

調査官「お父さまの口座から毎年決まった日に110万円の出金がありますね。このお金が入金されていた通帳をみせてもらえますか?」

Aさん「あぁ、これはですね……父が生前『孫の教育費に使え』といって生前贈与をしてくれていたものです。といっても、遺言書で知ったんですけどね(笑) 不器用な父が孫のためにこっそりと貯めておいてくれていたみたいです。塾代やら習いごとやら子どもはなにかとお金がかかりますから。父には感謝ですよ」

Aさんが調査官に説明したところ、調査官からまさかのひと言が返ってきました。

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調査官から告げられた「衝撃の事実」

税務調査官「なるほど、そうでしたか。それは素晴らしい。……うーん、ただ非常に申し上げにくいのですが、それでは生前贈与と認められないですね」

Aさん「えっ? 年間110万円以内ですよ?」

相続税調査の結果、Aさんは年収(550万円)を超える600万円の追徴税を課されてしまったのです。

Aさんは思わず「あんまりだ! ウチのような一般家庭を調査する暇があったら政治家や金持ちを調査しろよ! こんなのただの庶民イジメじゃないか!」と激昂。しかし、結果は覆りません。Aさんは泣く泣く納税するしかありませんでした。