海外だと列車内でも大きな声でスマホ片手に通話している人をよく見かけるが、日本では明らかなマナー違反。そういう場面に遭遇して不快に感じた人も多いはずだ。
現在、鉄道各社では《優先席付近では混雑時に携帯電話の電源をオフにする。それ以外ではマナーモードに設定し、通話は控える》とのルールが設けられている。
新幹線ではデッキの通話は可能としているが、通勤などに利用される近距離用の列車の大半にはそもそもデッキ自体が存在しない。そのため、車内での通話は事実上できないことになっているが、なかにはそういったルールを無視して堂々と通話している人物もいる。
◆大声で通話する乗客にイラッ
専門商社に勤める浦上修治さん(仮名・35歳)もそうした場面に出くわした経験は一度や二度ではない。そんな彼が「特に強烈だった」と振り返るのは、昨年春の地方出張の際、空港発の快速列車の車内で遭遇した時の出来事だ。
「午後の乗客が少ない時間帯だったこと、それに旅行者が今ほど多くない時期だったので車内は空いていました。乗客は自分を含めて10数名しかいませんでした。でも、2つ目の停車駅を出発した直後だったと思いますが、突然大きな話し声が聞こえてきたんです。
声の主は、通路を挟んで斜め向かいに座るアラフォーくらい男性。『さっき空港に着いて、今向かってるところ』と電話相手に話していました。でも、一向に通話が終わる気配はなく、態度には出しませんでしたが内心早く切れよとは思っていました」
◆通話しているのは派手な格好をした中年男性
ちなみに通話男性は私服姿でおそらく旅行者とのこと。派手目のデザインのシャツを着て、セミロングの茶髪にクロムハーツ風の指輪にネックレスと年齢の割に若々しい恰好をしていたそうだ。
「チャラかったのもありますが、あまり似合ってなかったかな(笑)。若作りはしていましたけど、どう見てもおじさんだったので。ただ、『有休取ったから』なんて話していたのが聞こえてきたので普段はスーツ姿で会社勤めをしている方なんでしょうね。
本当は文句のひとつでも言ってやりたかったですけど、そういう風貌だったので逆ギレされそうじゃないですか。絡まれるのも嫌だったので見て見ぬフリをしていました」
◆下車する直前、通話男性を一喝した若者
それはほかの乗客も同じだったようで注意や抗議する者はいなかったが、通話男性から離れた席や別の車両に移動する者も。ところが、4つ目の停車駅に到着する寸前、20歳くらいの若者がスッと立ち上がり、この男性の目の前にやってきたという。
それでも電話に夢中なのかまったく気にしていない様子だったが、若者は男性の顔をのぞき込むようにして「ここは電車の中だぞ。さっきからペチャクチャ大声で喋ってうるせーんだよ! アンタさ、いい歳して常識も知らねーのかよ!」と一喝したのだ。
「その声に驚き、私も思わず身体をビクッとさせていまいましたが、それは通話中の男性も同じだったようです。ビックリしたのか視線を上げ、若者の顔を見たままポカーンとしていました」
この直後、列車のドアは開き、若者は降りてしまったとか。男性から謝罪の言葉も逆ギレすることもなかったが、ここでようやくマズいと気づいたのか「ごめん、また後でかける」と言ってようやく通話を切ったそうだ。
「おそらく若者は下車するタイミングを見計らって、その直前に言おうと決めていたんでしょうね。思っていたことを代弁してくれたので、男性に対してイラついていた気持ちも一気に晴れました。結局、私自身は何もせずに傍観していただけですけど(苦笑)」
◆自分で注意すると逆ギレされる場合も。まずは車掌に相談するべき
なお、浦上さんによれば男性が電話していたのは10分弱。迷惑行為もいいところだが、かといってこの若者のように注意するのは勇気が要ることだ。
22年1月、JR宇都宮線の車内で優先席に寝そべって加熱式タバコを吸っていた元ホストの男性は、注意してきた男子高校生に逆ギレして暴行。後に逮捕され、傷害や強要などの罪で懲役2年の判決が下ったが、高校生は全治6か月の重傷を負っている。
ここまでのケースは稀かもしれないが、注意されたことに逆ギレしてトラブルに……という話は決して少なくない。もし通話などの迷惑行為をしている乗客を見かけた場合、自分で注意はせず車掌に伝えて対応してもらうのがいいのかもしれない。
<TEXT/トシタカマサ>
―[乗り物で腹が立った話]―
【トシタカマサ】
ビジネスや旅行、サブカルなど幅広いジャンルを扱うフリーライター。リサーチャーとしても活動しており、大好物は一般男女のスカッと話やトンデモエピソード。4年前から東京と地方の二拠点生活を満喫中。