楽しかった記憶を刻む人々
ただ、「サンライズ瀬戸・出雲」の人気から考えると、「夜行列車は楽しいものだった」と言えることは確かだ。
夜行急行のボックスシートで一晩を明かした思い出を持つ人もいれば、あこがれだった寝台特急に乗れてうれしかったという人もいる。青函トンネルができて、寝台特急で北海道まで向かうことが可能になり、個室寝台でわくわくした記憶を持つ人も多いと思われる。
寝台特急を移動に使用する政治家は、最後は石破茂氏くらいになってしまったが、石破氏も個室寝台でのひとときを、くつろげる至福の時間と感じていたのだと思う。
そういった記憶を持っている人が、いまなおいる。
いっぽう近年、JR東日本やJR西日本、JR九州は過去の記憶を持っている人をターゲットに豪華な車両を使用したクルーズトレインを運行している。特別な車両を使用したツアーとして運行している。
ただ、かえって「高嶺の花」になっているところも。そういう意味では、楽しみの面で一般の夜行列車が求められている側面がある。
ビジネス面でも、時間さえ正確であれば移動とくつろぎを両方確保できる夜行列車を使用したい人もいる。宿泊施設の確保困難で、夜行を利用するという選択肢を提供するというのも、鉄道会社のビジネスとしてはありだと考える。
採算が合わないという課題もあるが、夜行列車は複数の側面から求められているのではないだろうか。(小林拓矢)
筆者プロフィール
こばやし・たくや/1979年山梨県甲府市生まれ。鉄道などを中心にフリーライターとして執筆活動を行っている。著書『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。