仕事と趣味とをつなげて、シームレスに
まだ20代ながら思慮深く、大人としての成熟ささえ感じさせる井之脇さん。役との向き合い方、それをまっとうする道筋も確立されているように見えますが……。
「そんなことはありません。作品の本数は重ねていますし、自分なりのノウハウはあるので、多くの選択肢から選べるようになったかもしれませんが、さらに新しいものを求めて毎回苦しみます。要領よく、瞬発力でいけるタイプではなくて。深さや濃さを出すには、準備には時間が必要です」
テレビドラマも映画も舞台でも、素通りできない演技が印象的で、深みや精度が作品ごとに深まっている印象の井之脇さん。この先どんな俳優を目指しているのでしょう。
「コロコロと上手に表情を変えられるのも素晴らしいですが、ひとつの役と出会った時、その皮ではなく内面が動くこと。トキメキみたいなもの、新しい人生観に触れた喜びをいつまでも持ち続けていたいです。今年29歳になりますが、20代はがむしゃらに働きました。30代からは趣味の登山ももっと楽しみたいです。山でなくても、歩くことで考えが深まったり新しい考えが浮かんだり、何よりリフレッシュできます。体は疲れても、心は癒やされる。それでゆくゆくは趣味と仕事の境目がなくなってもいいかもしれません。たとえば山の映画を企画したり撮影したり、出演した作品を、自然のなか屋外上映するのも楽しそうです。そうして仕事と趣味がつながってシームレスになれば、仕事ももっと楽しんでいける気がするんですよね」
PROFILE:井之脇 海(いのわき・かい)
1995年生まれ、神奈川県出身。07年、映画『夕凪の街 桜の国』で映画デビュー。 翌年、12歳で、カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞受賞作『トウキョウソナタ』に出演し、第82回キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞ほか受賞。最近の主な出演作は『義母と娘のブルース』シリーズ、『ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と』『9ボーダー』『ブラック・ジャック』等のドラマ、『ONODA 一万夜を越えて』『バジーノイズ』等の映画。18年には映画『3Words 言葉のいらない愛』で監督・脚本・主演を務め、第68回カンヌ国際映画祭ショートフィルムコーナー部門に入選。25年放送NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』への出演も控える。
映画『ピアニストを待ちながら』
監督・ 脚本:七里 圭
出演:井之脇 海、木竜麻生、大友一生、澁谷麻美、斉藤陽一郎
配給:インディペンデントフィルム
10月12日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
©合同会社インディペンデントイルム/早稲田大学国際文学館
撮影/本多晃子 スタイリング/坂上真一(白山事務所) ヘアメイク/AMANO 取材・文/浅見祥子