映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』でレオナルド・ディカプリオ演じる主人公のモデルとなったジョーダン・ベルフォート氏が語る投資術。ある日、義弟のフェルナンドから「相談に乗ってほしい」と言われたベルフォート氏。なんとフェルナンドは、60日足らずで10万ドル近い投資額を失ってしまったのだ。60日のあいだに一体なにが起こったのか? 本記事は、ベルフォート氏の著書『ウォールストリート伝説のブローカーが弟に教えた 負けない投資術』(久保田敦子訳・KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集したものです。

市場が比較的穏やかで安定していた時期に大損した義弟

噓だろ!と私は思った。私の妻の妹の夫フェルナンドが、魔法の手を持っていたとは。それも、触れるものすべてを黄金ではなくゴミクズに変えてしまう魔法の手を。株もオプションも暗号資産もNFTも何もかも、彼が触った途端に腐臭を放つ。

午後九時過ぎ、私はブエノスアイレスにあるフェルナンドの洒落たマンションの居間で、義弟の投資報告書をパラパラとめくり、悲しい現実が次々と迫ってくるのを感じていた。

端的に言って、義弟のポートフォリオは最悪だった。愚かな取引やタイミングのずれまくった投資を繰り返した結果、フェルナンドは過去2ヵ月間で、投資額の97パーセントを失い、残高はたったの3000ドル。その他の9万7000ドル余りはまるで屁のように風に乗って消えてしまった。

さらに悪いことに、これらの損失は、義弟が主に投資をしていた株式や暗号資産の市場が比較的穏やかで安定していた時期に生じていた。つまり、義弟は誰のことも責められない、ということだ。もしフェルナンドが投資した市場が大暴落したとか、そこまでいかなくとも投資した直後に大幅に値下がりしたなら話は別だ。それなら、義弟が被った損失の少なくとも一部は理解できる。

実際、まさにそのような状況についてウォール街でよく聞く格言がある。「上げ潮はすべての船を持ち上げる」つまり、株式市場が上昇しているなら、その市場にあるすべての株の価格は市場とともに上昇する傾向にあり、株式市場が下落しているなら、その市場にあるすべての株の価格は市場とともに下落する傾向にある。もちろん、債券やコモディティ、暗号資産、不動産、美術品、保険など、あらゆる市場で言えることだ。

結局、その市場が非常に好調ならば、当てずっぽうで投資しても儲かるとほぼ期待できる。天賦の才や、ひらめき、特殊な訓練などはいらない。市場があなたに代わって99パーセントの仕事をしてくれる。とてもシンプルだろう?

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ツイッター民「ひたすら難平買いを続け、上げ潮で救済されるのを待つしかない」

ただひとつの問題は、普段ならシンプル極まりないこの原則が、長期にわたる好景気の最中には、なんとも複雑になってしまうことだ。過度な好景気のとき――市場が沸き、チャットルームやツイッター[訳注:現X]などのアカウントや評論家たちが、この上り調子に終わりは見えないと異口同音にはしゃいでいるとき――。

人間というのは、それが永遠に続くと思ってしまう。突如、株式市場と野菜市場の区別もつかない素人投資家が自分を専門家だと思い込み、猛烈な速度で売買を繰り返し始める。投資の世界で初めて手にした儲けを自身の天賦の才のおかげだと固く信じ、その信念に勇気づけられ、彼らの自信は日を追うごとに強固なものになる。

このような素人投資家の投資戦略は必ずと言っていいほど短期に限られる。賭けが当たれば、すぐに利益を確定して脳内をドーパミンで満たして気持ち良くなる(株価がその後も上がり続けたとしても、気にしない。「利益は利益じゃないか。利益を得ている限り、破産することはあり得ない」と言って)。

そして賭けが外れれば、ひたすら難平買い[ナンピンがい。高い価格で買って保有している株をさらに買い増すことで、平均購入単価を下げ、株価が再び上がったときの利益を増大させようとすること。「押し目買い」とも言う]を続け、上げ潮ですべてが救済されるのを待つ。

彼らにはそれしか道がない。だって、ツイッター界ではみんなそうするよう勧めるから。それに、今までずっとそれでうまくいってきたし。市場ってものは必ず戻ってくるって言うじゃないか。

いやいやいや、必ずしもそうとは限らない。実際、市場は上がったり下がったりを繰り返す。そして市場が下がるとき、つまり、1999年のドットコム・バブル崩壊や2008年の住宅バブル崩壊みたいに本当に暴落するときは、上がるときとは比べ物にならないくらい急激に、そして大幅に下落する。幾年かの経験を有するプロの投資家は誰でも、これに同意するはずだ。

このことはひとまず置いておいて、フェルナンドの話に戻ろう。義弟の無惨なポートフォリオは市場のせいじゃない。少なくとも表面上は。細かく見ていこう。