コロナが収束した今、社員が過剰のIT系で進む若手リストラ

――なるほど。赤字企業ではどんな背景があるのでしょうか。また、どう立ち直ろうとしているのでしょうか。

本間浩介さん 赤字企業では、情報通信業のいわゆるIT系企業が複数社見られ、DX事業を手掛けるスカラや、モバイルオンラインゲームを手掛けるgumiなどの企業が募集を実施しました。

コロナ禍ではDX化が叫ばれ需要が増え、IT系企業は人員を確保しました。しかし、コロナ禍が収束した今、社員が過剰の情報通信会社も出てきました。そのため、現在の需要に見合った人員の適正化を図っていると思われます。IT系はコロナ禍で、非常に変化が大きかった業種のひとつです。

――ところで、募集の対象者の年齢がもっとも低かったのは、「30歳から」とあります。通常のリストラなら人件費がかかる40~45歳からが多いと思いますが、なぜ「30歳」と年齢を引き下げるのでしょうか。

本間浩介さん これまでリストラは人件費が高い年代が対象でしたが、最近は不採算事業の止血を急ぐ企業がプロジェクトや事業ごと縮小するパターンが見受けられます。今回、30歳からの早期希望退職を実施した協和キリンは8月にグローバルでの研究体制への移行で、国内の一部創薬業務を大幅に縮小し、関連プロジェクトの中止を発表しました。協和キリンの募集は、事業縮小のため30歳以上が対象になりました。

また、シャープの子会社で液晶ディスプレイ製造の堺ディスプレイプロダクトも7月に、工場の稼働停止による500名募集を東京商工リサーチの取材に答えました。

こうした事業縮小では年齢はあまり意味を持ちません。人件費が高騰するなかで固定費削減を図り、不採算事業を見直すと、募集対象の低年齢化も進行すると思います。

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若手の希望退職はキャリアアップ、従業員と企業双方にプラスに

――う~む。それぞれの企業と社員にとっては大変な事態ですね。こうした企業の早期希望退職募集の加速は、人材の流動化進展のためには日本経済にとってプラスとみますか、それともマイナスですか。

本間浩介さん 人手不足が喧伝されていますが、人材の流動化は数値だけで短絡的に測れるものではありません。個々人の能力、適性、意欲などの面からも見る必要があります。

大胆に言えば、賃上げが低い、賞与が少ないなど、金額面の不満であれば成長企業で人手が足りない企業に移るメリットはあるでしょう。また、キャリアアップにつながるケースも、従業員と企業の双方にプラスになると思います。

ただ、年齢的に職業分野の選択肢が狭まる中高年の離職は、次の職が見つかりにくく、失業保険などで社会保障面の負担が増えます。欧米のように転職が日常であれば、早期希望退職募集の加速は企業業績にプラスになり、社会的にもメリットが大きくなりますが、日本ではまだ転職市場の評価が曖昧なだけにマイナスの側面が強く出るかもしれません。

――今回の調査で特に指摘しておきたいことがありますか。

本間浩介さん 構造改革で成長分野以外の人員削減が目立ちますが、人員削減は優秀な人材流出というリスクも抱えています。また、同僚の退職はモチベーション低下を招くかもしれません。

人員削減は複雑な状況を招きかねないリスクを考えるべきでしょう。また、対象者の生活を支えることにも配慮し、従業員へ特別退職金の支給や再就職支援など、きめ細やかな支援を一層強化すべきと思います。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)