増えない給与に止まらぬ値上げ、さらには地震や酷暑、豪雨などなど……考えはじめるとキリがない生活への不安。こんな“生き辛い”現代の日本で暮らす20代~50代の男女4人に、それぞれの生活状況や経済的事情について“赤裸々”に語ってもらいました。ルポライター増田明利氏の著書『お金がありません 17人のリアル貧困生活』(彩図社)より、詳しくみていきましょう。
ハイソな人は下々の暮らしなんて想像できない…相次ぐ値上げに辟易
<参加者プロフィール>
■平井伸浩(28歳)……月収23万円前後
大学卒、派遣社員。大学卒業後に外食産業に就職したがブラック度が高い会社だったため、約2年で退社。アルバイトを経て派遣会社に登録、携帯電話会社の販売店に派遣され販売と事務処理に従事。
■金沢美幸(35歳)……月収約8万円(扶養の範囲内)
短大卒、パートタイマー。短大卒業後に印刷会社に就職。28歳のときに結婚し30歳で長男を出産。退職して主婦兼ママで過ごしていたが20年9月から食品雑貨スーパーの半日パートで働き始める。夫は中堅旅行会社の営業マン。
■土屋景子(45歳)……月収20万円
専門学校卒、契約社員。経理・ビジネス系の専門学校を卒業して機械加工会社に就職。寿退職して主婦業に専念していたが結婚生活約15年で離婚。現在は業務請負会社の契約社員で倉庫作業に従事。高校1年生の娘と中学1年生の息子を育てるシングルマザー。
■吉田貴司(53歳)……月収25万円
大学卒、正社員。大学卒業後に建築会社に就職したがリーマンショック後の09年にリストラで退職。以後は職を転々とし16年に食品製造会社に工場作業員として採用される。契約社員を経て正社員になれたが賃金は相変わらず日給月給制のまま。家族は妻と社会人1年目の長男、大学2年生の次男。
──最近の物価高騰は痛いですか?
吉田:妻は食料品の値上げが凄いってこぼしていますし、自分も当番で買い物に行くけどそう思います。よく買うのは1袋29円のもやし、1丁58円の豆腐、3個パック88円の納豆。栄養価が高いのが救いですね。
土屋:うちは3人で毎月の食費を3万円に抑えるようにしているのですが、これで買える食品の量は確実に少なくなりました。だから野菜以外は週に1回、業務スーパーとかドンキに行ってまとめ買いするようになりました。
金沢:閉店間際のスーパーで値引きシールが貼ってある肉、魚、惣菜などを底値で買っておくのも大事ですね。その日は使わなくても買い集めて冷凍しておけば、かなりお得ですから。
吉田:妻が話していたけど、値上がりしていないのはお米ぐらいなんだってね。食パン、カップ麺、お煎餅などは何度も小幅な値上げがあったらしいし。
平井:外食も値上げラッシュですよ。よく利用する幸楽苑、王将、鳥貴族などがたいていのメニューを20~30円値上げしていました。
金沢:ガストの日替わりランチも値上げしていましたよ。ドリンクバー付きだと175円も高くなった。ミスドもロッテリアも値上げするっていう話ですね。息抜きやささやかな楽しみもお財布と相談しなくちゃならない。
土屋:食費を削るしかない生活では外食なんてできない。デニーズやジョナサンなんて子どもの誕生日だけです。
吉田:ガソリンが高止まりしているのも痛い。夜勤のときは自前の軽自動車に乗っているけど、ガソリンを満タンにすると車体が重くなって燃費が悪くなるので、給油するときはタンクの半分までしか入れない。
金沢:電気代、ガス代の値上げも止まらないみたいですね。特に電気代は2年前と比較すると月3,000円も多くなっていました。冷暖房も倹約ですよ。
土屋:冬の暖房代を節約するには足湯がいいですね。家にいるときは厚着すればなんとかなるけど帰宅直後や起床直後は身体が動かない。そんなときは洗面器にお湯を張って足湯をする、すぐに温まりますよ。
平井:休日は家にいると電気代や水道代がかかるので、図書館とか生活センターに行っています。無料の給茶器もあるし新聞や週刊誌も読めますから。
土屋:子どもたちの制服のクリーニング代も上がっています。ブレザーの上下、詰襟の上下は1,600円超えちゃいましたね。今までは近所の個人経営でやっているクリーニング店に出していたけど、少し安い大手チェーンの取次店に変更しました。
吉田:たまにリフレッシュ目的で行っているスーパー銭湯も値上げするって貼り紙が出ていましたね。燃料が高くなっているのだから仕方ないんでしょうけど。
金沢:日本銀行の総裁が消費者は値上げを容認しているなんてのたまっていたのはイラッとしますね。
土屋:ハイソな人は下々の暮らしなんて想像できないんですかね。
吉田:想像力が乏しいんだよ。
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総理は信用できないし…参加者たちが抱く不安・心配事
──今感じている不安、心配事などがあったら教えてください。
平井:仕事と雇用が不安です。自分の場合は派遣で6ヵ月ごとの契約更新制で働いています。この先、直接雇用に転換することはないだろうし、必要がなくなったら切られるのは目に見えている。いくら権利を主張したところで期間満了だからって言われたらおしまいですから。早く直接雇用、正社員で働けるところを探さないと。
吉田:就職活動はやっているの?
平井:ハローワーク、ヤングハローワークには定期的に通っていますし、人材会社が主催するジョブフェアにも顔を出しているのですが、上手くいきません。自分の年齢だとまず経験を求められる。介護、陸送、飲食は門戸が広いけどブラック度が高そう。まずは宅建士の資格を取って不動産関係に進めるようにしたいです。
金沢:夫が失業しないか心配で仕方ない。コロナで収入は減り続けているし同業他社には倒産したり自主廃業したりしたところもあるそうです。もしそんなことになったら、日雇いでも何でもやるって言っていますけど。
土屋:わたしは、まずこの物価高を何とかしてもらいたい。新聞とかテレビでは○○が3%から8%の値上げとか、△△は2年前に比べて3割上昇なんて解説しているけど、実感としてはほとんどのものが倍近くになった感じです。
金沢:それはわたしも実感します。収入はほとんど上がっていないのに食品、電気代、ガス代、ガソリン、灯油と生活必需品は高くなるばかり。生活は縮小するばかりですよね。
土屋:まだまだ値上げは続くっていうから大変ですよね。本当に頭が痛くなる。
吉田:わたしはとにかく健康が心配です。血糖値が高い、血圧も高め、五十肩が治らない、週末は腰痛が出る。摂生して大病にならないようにしないといけません。病気になっても医療費が払いきれないから。
平井:お仕事についてはどうですか?
吉田:クビにならない程度には働くよ。だけど身を粉にして頑張ろうなんて思わない。刹那的に思うだろうけど1日のうち8時間から10時間を売って金に換えている。そう考えています。あとは妻を怒らせないことですね。熟年離婚なんてことになったら男は惨めなものだから。
土屋:わたしはもう上がり目は期待できないけど子どもたちにはいい仕事に就いてもらいたいし、経済的にも豊かな暮らしを続けられるようになってもらいたい。2人とも大学に進めるようにするのが務めだと思っています。公務員とか資格で食べていけるようになってほしい。子どもだけ、わたしの人生は子どもだけです。
平井:半年後、1年後はどうなっているのか分からない。この先の仕事や生活の不安で眠れないこともあります。
金沢:総理は成長と分配とか、新しい資本主義なんて言っているけど信用できないですし。
吉田:社会がどんどん悪い方向に行っているのではと思うことがある。数万円のために自殺したり犯罪に走ってたりしてしまう人がいるでしょ。トチ狂ってると思う。
土屋:あまり暗いことばかり考えず、前向きにやっていこうとは思います。
(一同嘆息混じりで頷く)
増田 明利
ルポライター