小学生時代から食日記をつけ、大学在学中より文筆活動をスタートした平野紗季子さん。
新刊でも「食とは何か」を探求し続けている平野さんに、飲食店への思いを尋ねました。
お店の扉の先にあるのは切実な人生だと気づいた
「食の幸福な記憶を残したい」と、小学生の頃から日々食べたものをライフワークとして綴ってきた平野紗季子さん。
「食べものって〝消えもの〟だから、食べたらなくなってしまう。それが私はすごく悲しくて。どうして取っておけないんだろう? という気持ちを出発点に、食日記をつけてきました」
新刊エッセイ『ショートケーキは背中から』でも、あらゆる味を探求し、記録している平野さんですが、多くの飲食店を訪れる中で、外食体験に対する考え方の変化もあったそう。
「私は、レストランの扉の先にある〝物語〟を味わいたいと思っていたけど、お店の向こうに広がっているのは、物語よりもずっと切実な、店主の方の紡いだ人生の集積なんだと気づいて。都合よくお店を消費しようとする態度への違和感を感じて、もっと違う形で飲食店と向き合いたいと思うようになりました」
SNSでも飲食店に関する情報があふれている今は、どうしても客側が店を一方的に消費し、ジャッジする図式が生じてしまいがち。お店とゲストのいい関係を作るためには、どんな心構えが必要なのでしょうか。
「『話題のお店に行ってみたい』というモチベーションは私もありますし、新しいものに惹かれる気持ちは避けられないですよね。
ただ飲食店に限らず、客だからといってリスペクトを失ってはいけないと思うんです。たとえ1回しか行かないお店だとしても、そこにいるのは人なんだ、ということは忘れたくない」
知らなかった味に出合うだけでなく、愛着のある店でくつろぐことも、外食の喜びのひとつ。
「子どもの頃から繰り返し通ううちに、おいしかった記憶や一緒に行った人との時間が積み重なって、自分しか感じられない良さが生まれる。心を預けられるくらいの信頼関係を築くには時間がかかるし、そんなふうに大切にしているお店は、本当に両手で数えられる程度です」
ちなみに、本書からも気持ちのよい食べっぷりが伝わってくる平野さんですが、実は1日1食のことも多いそう。
「旅先だったら、1日5食でも食べられるけど、普段は基本的に朝食は取らないし、夜に食事の予定が入っている日は、お昼もバナナを食べるくらい。レストランには、お腹がペコペコの状態で行きたいんです」
『ショートケーキは背中から』
平野紗季子
¥1,870(新潮社)
おなじみのチェーン店から北欧のガストロノミーまで、あらゆる味を記録し続ける著者によるエッセイ集。ちなみに、平野さんが人生最後に食べたいものは「水ようかん」。「食べるとほぼ液体、みたいな甘くて冷たい、さらさらした水ようかんが食べたいです」
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