超高齢社会の日本において、「親にはできる限りのことをしてあげたい」という考えは禁物です。親の介護を人任せにしない“義理堅い日本人”を待ち受ける恐怖の未来について、そうならないための対策とともに詳しくみていきましょう。芸人の安藤なつ氏と介護ジャーナリスト太田差惠子氏の共著『知っトク介護 弱った親と自分を守るお金とおトクなサービス超入門 第2版』(KADOKAWA)より、詳しく解説します。
〈登場人物紹介〉
●安藤なつ……介護歴約20年。現場のことはある程度わかるけれど、制度やお金のことについて詳しく知りたい。
●太田差惠子……取材歴30年以上の「介護とお金」に詳しい介護ジャーナリスト。費用を抑えるための介護制度や、プロの手の借り方について解説。
子どもの「お金」と「時間」は別に確保しよう
□親も子どもも100歳くらいまで生きると想定する
□親の介護は親のお金で
安藤:自分の子どもが成人して一段落ついたとほっとした頃、親の様子がなんとなくおかしい、という人が多くなりますよね。
太田:そうなんです。子育ての手が離れた頃に、親から「ちょっと転んだ」「腰が痛い」など、ちょくちょく呼ばれることが増えてきます。何でも、「はいはい」と聞いてしまうと、子ども自身の身がもたないですよ。
安藤:でも、今まで育ててくれた親には、できる限りのことはしてあげたいと思うのは当然な気もしますが……。
太田:いえいえ、そこでいいかっこうをするのは、禁物です。たとえば、自宅から実家まで、片道1時間とします。毎週実家に通ったら往復で2時間、1年に換算すると、100時間以上です。もし、子どもが50歳、親が80歳だとすると、“人生100年時代”といいますが、105歳まで生きるケースを想定すれば、これがあと25年は続くんですよ。
安藤:えええ!!! 25年も。しかも25年後、子どもは75歳だ。とても体がもちませんね。
太田:交通費だって片道1,000円なら往復2,000円。1年で約10万円。25年で250万円ですよ。
安藤:250万円って……新車1台分より高いじゃないですか!!! バカにならないですね……。
太田:それに、子どもだって、105歳まで生きるかもしれないんです。その老後資金の250万円が、親のための交通費に飛んでしまうんですよ。子どもが老後破綻になることだってなくはないです。
安藤:まさに、親子共倒れ……。
太田:介護は「就職」「結婚」「出産」と同じライフステージのひとつと考えて、親には、お金も気持ちも自立してもらって子どもはドライに割り切ることが大切なんです。
安藤:ライフステージのひとつ。考えたこともなかった。でもやっぱり親のことを見捨てるなんてできない……。
太田:そこで、上手に活用したいのが「介護保険サービス」や「自治体が独自に行うサービス」です。美味しいご飯が食べたいならレストランに行くように、プロのヘルパーさんや、地域のボランティアサービスをどしどし利用しましょう。親の介護をきっちりサポートしてくれます。
安藤:なるほど! 親の介護は、親のお金でプロのサービスを使い倒すってことですね。太田さん! 詳しく教えてください。
(広告の後にも続きます)
介護はひとつのプロジェクト…子どもの役割は「司令塔」
□周りを巻き込んだ介護の体制作りをする
□家族ができない介護はプロに任せる
□親の状況を知る。「できること」「できないこと」の確認
安藤:親の介護って、やっぱり子どもが全面的にやらなければいけないって思ってしまうのですが。離れて暮らしていると難しいような。
太田:親に介護が必要になったら、介護の体制作りをまず考えます。介護を「ひとつのプロジェクト」と考え、サポートできる人たちをそのメンバーと考えます。
安藤:「ひとつのプロジェクト」ですね。みんなが親の介護というプロジェクトのために一致団結するってことですね!
太田:参加するメンバーには、まずは、介護の中心を担う「主たる介護者」がいます。通常、両親がそろっていれば、元気なほうの親が担当し、主な役割としては、身体的なケアや精神的なケアを担います。
安藤:元気なほうの親か……。でも介護する親も高齢だとなかなか大変ですよね。
太田:もちろん、すべてを1人ではやりきれません。できない部分を子どもがサポートしたり、プロの手を借りたりなど、みんなで役割を分担していくのです。この人たちもプロジェクトのメンバーなのです。最近は1人暮らしで、主たる介護者が不在のケースも増えています。そんなとき、重要な役割を担うのが「キーパーソン」です。
安藤:「キーパーソン」って何ですか?なんだか重要そうな響き……。
太田:キーパーソンの主な役割は、外部との「調整・交渉・手続き」の窓口となり、家族間の意見の取りまとめをする人です。たとえば、介護サービスを利用する場合、申し込みや契約などの手続きが必要になります。またサポートする家族が複数いる場合も、外部との窓口は1つにしておかないと混乱するだけ。こういった役割は、必ずしも身近に暮らしている人がベストとは限りません。離れて暮らしている子どもでもできる役割なのです。
安藤:なるほど! 外部との交渉や調整は、普段仕事をしている子どものほうが向いていそうですね。