老人ホームに入居した母を持つひとり娘に差し迫る現実。母の年金は毎月数万円で預貯金と合わせて支払いをしていく算段を立てるも、果たして高額な老人ホーム費用に耐えうるのでしょうか。高齢化社会が嘆かれる昨今、この課題はあらゆる人にとって無関係ではありません。自分と家族を取り巻く経済的な課題に、波多FP事務所の代表ファイナンシャルプランナーである波多勇気氏が、いまからできることについて解説していきます。

貯金が尽きる恐怖に怯える娘

Aさん(仮名)は50代半ば、東京郊外に住む会社員で、85歳の母を持つひとりっ子です。現在は自分の家庭を持ちながら、週に一度、85歳の母親の面倒を見ています。

母は数年前に夫を亡くし、それ以来一人暮らしを続けていましたが、体力の低下と認知症の初期症状が出てきたことから、老人ホームに入居することを考えました。

Aさんは母とともに老人ホームに入るための経済的な算段を立て始めます。母の年金は月々8万円です。Aさんは自宅から通いやすく、いつでも様子を見に行ける老人ホームを検討しましたが、口コミによると待機人数が多い人気の老人ホームのようです。さらに、費用は月額20万円と、年金ではとても賄いきれません。できれば年金の範囲内で納めてくれると安心ではありますが、どのみち8万円では入れる老人ホームもなかなかありません。

「高額だし、入れないと思うけど……」ほかに検討できる老人ホームもなかったことから、Aさんは数件の老人ホームに連絡してみました。ここで小さな奇跡が起こりました。ダメ元ではあったものの、たまたまキャンセルがあり、驚くほどスムーズに入居が決まったのです。

「少し高いけど、貯蓄を切り崩しながらお世話になりましょう」母と相談し、Aさんはそう決断しました。めでたく地域でも人気の老人ホームに入居することが決まったAさんの母に、ほどなく不幸が襲います。入居して1年も経たぬうちに患ってしまい、入院が決まったのです。

2ヵ月ほどの入院が見込まれますが、治療費や入院費用がかかるうえに老人ホームの費用もそのままかかってしまいます。これでは計算が狂ってしまう……。Aさんは、「母の寿命が尽きるのが先か、貯金が尽きるのが先か」という恐怖に苛まれてしまいます。

気が滅入る毎日を送るAさんですが、このようなケースは決して特別ではありません。日本では、高齢化が進む一方で、年金額と介護費用のギャップに苦しむ家庭が増加しています。特に、地方では年金収入が少ない高齢者が多く、経済的な負担は深刻な問題です。

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年金と老人ホーム費用のギャップ…日本の現実

高齢化が進む日本では、親の介護とその費用をどのように負担するかが、多くの家庭で課題となっています。

厚生労働省によると、2022年時点で日本の平均的な年金受給額は男性で約15万円、女性で約10万円といわれていますが、これでもすべての老人ホームの費用をカバーすることは難しいのが現実です。

老人ホームの費用は施設の種類によって異なりますが、民間の有料老人ホームの場合、月額15万~30万円が相場です。これに対して、低所得の年金受給者はその差額をどこから補填するかが大きな課題です。さらに、母親が長生きすればするほど貯金は減り続け、最終的には資産が尽きるリスクもあります。

親の介護費用に加えて、Aさん自身も将来的には定年を迎え、自分の老後資金を蓄える必要があります。自分の未来と親の現在の世話、この2つをどうバランスするかが最大の課題です。