Mikhail Metzel, Sputnik, Kremlin Pool Photo via AP

 ロシアで急増する軍事費が、自国の首を絞めようとしている。国防費は国内総生産(GDP)比で6.3%にも達し、経済の歪みを加速させ社会保障を圧迫している。プーチン政権はウクライナ侵攻を続けているが、ロシアの経済状況次第ではウクライナ勝利の道も見えてきた、と欧米メディアは指摘する。

◆国防費は約21兆円に達する

 ロシア政府は2025年から2027年の予算案を承認し、国防費を大幅に増額する方針を示した。2025年の国防費は前年比25%増の13.5兆ルーブル(約21兆円)に達し、GDP比6.3%を占める見通しだ。

 2022年のウクライナ侵攻以来、ロシアは経済を戦時体制に移行させ、軍事生産を大幅に拡大している。西側諸国の制裁下で軍事機器や武器の調達が困難になるなか、国内の軍産複合体を強化する狙いがある。

 米政治専門紙ヒルに寄稿したラトガース大学政治学のモティル教授は、ロシアの名目GDPは約2兆ドルであり、アメリカの29兆ドル、中国の19兆ドルと比較して極めて小さいと指摘する。にもかかわらず、プーチン大統領は北大西洋条約機構(NATO)全体と対決し、ウクライナ戦争に莫大な資金を費やしている。

 コンサルティング会社Teneoの中東欧アドバイザー、アンドリウス・トゥルサ氏は米CNBCに対し、軍事経済は長期的には持続困難であり、教育や医療、インフラ整備などへの投資不足につながる恐れがあるとの懸念を示している。同氏は「プーチン大統領の権力掌握が緩み始めたら、生活水準に対する国民の不満は、将来のある時点で噴出する可能性がある」と警告する。

◆ロシアが直面する「2025年問題」

 今回発表された予算案では、国防と安全保障関連の支出は、2025年の政府総支出の約40%を占める。CNBCは、国防費が社会保障費の2倍以上になっていると指摘する。

 現在のところロシア経済は成長しているが、これは戦時支出による見せかけの繁栄に過ぎず、長期的には持続不可能との見方が濃厚だ。ウプサラ大学ロシア・ユーラシア研究センターの研究部長のステファン・ヘドルンド氏は米フォーチュン誌(10月14日)に、多額の資金が兵士の契約や軍事器材の生産に投入されており、これらは長期的には正当化できない支出だと述べている。

 モティル教授は、2025年がロシアにとって危機の年になると予測している。経済が崩壊すれば軍事力と戦争継続能力も低下し、プーチン政権は資金不足に見舞われる可能性が高い。そうなればプーチン政権にとって、打てる手はほとんど残されていない。

◆原油価格の引き下げもウクライナ勝利に寄与か

 さらに、サウジアラビアの原油価格引き下げ戦略がロシアの戦費調達に深刻な打撃を与える可能性が出てきた。フォーチュンによると、サウジアラビアは市場シェア拡大のため、原油価格の非公式な目標価格(1バレル100ドル)を撤回する方針だという。

 ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのルーク・クーパー氏は、「これはロシアにとって最悪の事態だ」と指摘する。ロシアは石油依存型経済でありながら、採掘コストが高いため、市場価格の下落に対応できない。

 この状況は、ロシアを経済的に困窮させ、ウクライナの勝利につながる可能性がある。モティル教授は、ロシアが2025年末までに戦争を終結させざるを得なくなる可能性を指摘している。経済学者のアンダース・オスルンド氏は、ロシアは「隠れたインフレ」や予算赤字の制約に直面しており、経済的破綻を避けるためには戦争を終結せざるを得ないとの見方を示す。