人生のテーマは「であい・ふれあい・あんしん」、最初の「であい」が結婚
――【図表】をみると、地方の労働組合でも独自に行っていますね。
中村天江さん 地方は、連合の地方組織と生活協同組合(コープ)、労働金庫などが連携する労働者福祉協議会(労福協)が中心になる場合が多いです。今年から婚活支援を始めた大分地区労福協は、人生設計の流れに沿って「であい・ふれあい・あんしん」をテーマに、それぞれを支援すると決めました。
「あんしん」は資産形成の知識、「ふれあい」は家族の絆づくりで、最初の「であい」がパートナー探しです。8月に行ったレストランでのパーティーは、お互いをニックネームで呼び合うカジュアルなものでした。実際の参加はなかったそうですが性的マイノリティーの方の参加もOKにしています。
――ほかの地方ではいかがですか。
中村天江さん 山口県や香川県などでは、家と職場の往復だけだと、パートナーをみつける機会が少ないので、労働組合に出会いの場を広げてほしいという声が届くそうです。そこで、山口県岩国地区の組合団体は、山口県が行っている「やまぐち結婚応援団」に登録・連携し、組合員以外の一般人の参加もOKと対象を広げています。
また、香川県の組合団体はボウリングやハロウィンパーティーなどを開く際に、組合員以外の同伴者も認めたり、新潟県では年齢制限を外したりしています。地域によっていろいろな企画が行われています。
――リポートでは、地方の場合、女性の参加率を高めることが課題だと指摘していますが。
中村天江さん 男性はたいていすぐ集まるが、女性は集まりにくいことがあるそうです。女性は、パートナー探しを同僚に見られたくない、仕事が終わった後に身なりを整えて参加する余裕がないといった事情があるといいます。近年は女性従業員に対する会社の期待も高まっていますから。
そこで、あえて「パートナー探し」の1対1の場にせず、グループで盛り上がって楽しむイベントも行われています。
(広告の後にも続きます)
「組合費を婚活に使うな」との批判、大きなストーリーで乗り越える
――なるほど。いろいろと努力と工夫を重ねているのですね。
しかし、一般に組合費は収入や年齢に応じて高くなります。組合が独身者しか恩恵を受けない婚活支援に取り組むと、組合費を多く負担する既婚者から「もっと賃上げ闘争や労働条件の改善に組合費を使うべきだ」と文句が出ることはありませんか。
中村天江さん もちろん、そういった声が出ることはあるそうです。内部からの批判を乗り越えるには、組合自身が「大きなストーリー(物語)」を持つ必要があります。組合内で婚活のような労働組合の一義的な目的ではない活動が認められるためには条件が2つあります。
第1に、多岐にわたる組合活動において、取り組みの主従をはっきりさせることです。つまり、賃上げやハラスメントの防止といった、労働条件・労働環境の改善のための取り組みをしっかり行い、一定の成果をあげたうえで、それに影響しない範囲で他の取り組みを行う。例えば、日本電気労働組合本社支部は、春闘期間中はレクリエーション活動を行っていません。
第2に、活動の大きな方向性について組合内部で合意していることです。先ほど述べた日本電気労働組合本社支部は、組合の組織発展と組合員個人のニーズの両面から、「組合活動の価値は交流にある」と位置づけています。労働組合同士の組織交流でも、仕事上のしがらみを超えて競合他社の人達と話すことができ、それが仕事のしかたや自身のキャリアを考えるきっかけになります。
つまり、他社・他労組との交流が、組合員の人生に寄与するという大義名分があります。複数の事業からなる交流活動の全体がうまくいっていれば、その一部である婚活支援だけをどうこうするという話になりません。