今のところ、従業員の満足度向上というメリットが弱い

――デメリットとしては何が考えられますか。

調査担当者 企業側からみたデメリットは、デジタル払いと口座振込の二重運用や、労使協定の改定などによる業務負担の増加や人事給与システムの改修などの費用の増加があげられます。

労働者側からみたデメリットは、現時点で「PayPay」しか選択肢がないため、好みの資金移動業者を選定できない点があります。また、デジタル払い利用頻度の増加による詐欺や不正出金被害リスクも増大します。さらに、業者の破綻によるサービスの中断・停止も心配です。それに、地方などでは活用できる店舗が十分でないこともあげられます。

――そうしたメリットとデメリットを考えると、これほど「導入に前向き」な企業が少ないのは、企業にとってメリットよりもデメリットのほうが大きいということでしょうか。

調査担当者 調査結果の企業のコメントをみると、特に従業員の満足度の向上というメリットが弱いと言えます。企業からは、「デジタル払いを利用する従業員が少ない」や「地域でデジタル払いができる店舗が限られる」「社内アンケートを実施したが、希望する者はいなかった」などの意見があがりました。

他方、企業にとって大きな負担になるデメリットは、開始時にかかる「業務負担の増加」と言えます。「振り込み処理が複雑になる」や「手続きに手間がかかりそう」などの声が聞かれました。また、「システム障害などのリスクがある」との声もあり、「サービスが中断・停止に陥る」といった新たなリスクの存在も導入を妨げる大きな要因と考えられます。

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導入する際は既存システムと連動させるとか、企業の手間を減らすサービスを

――「PayPay」以外にも「auペイ」など数社の事業者が厚生労働省に申請を出しています。今後、給料デジタル払いを広げるためには、何が一番重要な課題でしょうか。

調査担当者 重要な課題は、デジタル払いそのものの利用拡大と考えます。それを改善・解決していくためには店舗などでのデジタル払いの導入と消費者のデジタル払いの利用を促す政策の強化が大事と言えます。

また、企業からは「関心はあるものの、何をどうすればよいか分からない」などの声も複数ありました。企業に制度やサービスに対する理解の進めることも大きな課題になるでしょう。関連機関によるきめ細かい情報の周知が求められます。

さらに、業務負担の軽減も重要です。導入する際は既存システムと連動させるとか、企業の手間を減らす商品・サービスの設計・提供などが改善のカギとなり得ます。

――なるほど。課題がたくさんありますね。今回の調査で特に指摘しておきたいことがありますか。

調査担当者 キャッシュレス化がさらに進み、全国的にデジタル払いに対応する店舗や施設が増えれば、賃金デジタル払いのニーズが拡大するでしょう。そのためには、制度・サービスに関する情報が行き渡ることが必要ですが、同時に手続き・運用を簡素化し、セキュリティーの強化を図ることも大切です。そして何より、万が一のときのトラブルへの十分な備えが求められます。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)