元NHKアナから転職 内多勝康さんが医療福祉の現場で思う「人を動かす」ために大事なこととは?

”誰か”の幸せを深く考えることが地域・社会を変える

―内多さんのお話から、「誰かの役に立ちたい」という思いを持つ方が多くいるのだと感じました。コロナ禍で人のつながりが希薄になり、従来のボランティア活動が難しくなっていますが、身近な地域や社会を少しでも良くするために、私たちはどのようなことを大切にしたらいいのでしょうか。

内多:福祉の業界で働くにあたり、僕が尊敬する方々の話を聞いて回ったところ、ある共通点があることに気付きました。みなさん、活動のきっかけとして「〇〇さんが困っていたから」と答えるんです。つまり、困っている相手が固有名詞だった。

ただ漠然と「日本全体をもっと良くしよう」という動機ではないんです。

「なぜ”この子”が、不自由な思いをしないといけないのか」

そんな理不尽さに気付いて、じゃあ自分が動いて社会、つまり制度や法律を変えていこう、「この子のために何ができるか」ということを突き詰めていった……という経験が、原点としてあったのです。

僕自身、医療福祉に転身したのは『クローズアップ現代』を担当して、医療的ケア児の親の声に触れたことがきっかけとなりました。

また尊敬する方々のお話を聞き、「一人の幸せを深く考えることで社会を変えることを目指す」という僕の方向性は間違っていない、と確信しました。

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ようやく悲願が…子どもたちの成長にスポットが当たった

広々とした空間に絵本やおもちゃなどが揃っている「もみじの家」のプレイルーム

内多:今年で「もみじの家」で働き始めて5年となりますが、実はようやく一つの成果が出せました。

もみじの家では、子どもたちが楽しく遊んで過ごし、成長・発達につながるような「日中の活動」に力を入れています。そのために保育士を雇用してプレイルームも充実させています。でも国の制度上は、「医療的ケアや介護」のための報酬しか出ないので、「日中活動」の費用は施設の自己負担でした。

要するに、これまでの制度は、医療的ケアを要する子どもたちが豊かに過ごす権利について想定されていなかったのです。

プレイルームにある、牛乳パックで手作りしたおもちゃ

同様の声は、全国の施設から聞かれました。そこで、全国で医療型短期入所施設を運営している人たちと協力して、厚生労働省に「日中活動支援加算」の要望を何度も諦めずに申請してきました。

こうした活動が功を奏してか、令和3年度から「もみじの家」のような医療型短期入所施設における日中活動に対して報酬が加算されることになりました。