見ようとしないと見えないものがある

人は人生においてそれぞれにいくつかのターニングポイントがある。人生がガラッと変わってしまったり、最初はよくわからず予感だけで目指した世界が次第に開けたり。

雅美さんは20代に志したアングラ演劇に区切りをつけ、マリンスポーツの出版社に入って「こんな明るい、ぜんぜん違う世界があるんだ」と驚いたという。

しかしアングラ芸術を志した人だったからこそ、巡り巡って海や大自然の奥の見えないものを心の目で見るようになっていったのだろう。その出版社で水中カメラマンの夫と会い、娘を出産。その後、2000年に見た「夜の虹」が、今の雅美さんの暮らしや仕事につながる大きな大きなターニングポイントになる。

「家族でハワイに滞在した時に、夫が『メディスンマン』に出会い、夜空に出る虹がある、と聞いたんです。その3日後に実際に『夜の虹』を見ることができて。それから、夫の『夜の虹』を追いかける旅が始まりました。何度か私もいっしょに見ることができたのですが、その体験で見ようとしないと見えないものごとがあるのだと気づきました」 

例えば、夜空に虹がかかっていても、気づかない人も多いという。その後、震災を経て、友人から勧められた海洋プラスチック汚染に関する映画を見る。
「私たちは何でも海に捨ててきたんですよね。プラスチックは人間の暮らしを助けてくれるもので、プラスチックには罪はありませんが、人間たちが追求する便利な暮らしを少しでも見直せたら、と思いました」 

それから雅美さんは毎日ひたすら自宅から出るプラスチックゴミを撮影し続けた。得意技の可視化だ。 「こんなにプラスチックを使っているんだと驚きました。でも記録していくと、次第にゴミの量は確実に減っていきました」

ゴミを減らすためにアイデアを出して実行していくことで暮らしの中で創造性が動き始めた。
「制限のある暮らしの中で工夫するのがとにかく楽しい。思いがけない人生になりました」 

使ったプラスチックをきれいに洗って撮影すると、そこには今まで見えていなかったものが写っていた。「あるのに見えていない、目を凝らすと見えてくる」という「夜の虹」は、今も雅美さんの生き方の根幹にある。


生ゴミを減らすために始めた微生物によるコンポスト。
雅美さんは室内に置き、微生物と暮らす気持ちで楽しんでいる。


生ゴミを微生物が分解する時に出る電流を使った発電にも挑戦中。
生ゴミは大切な資源でもある。

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身近な自然を感じて都会で暮らしていく

数年前から実験をはじめた「コンポスト発電」も、目を凝らすと見えてくる世界のひとつだ。
雅美さんは家庭での生ゴミコンポストが生み出す微量の電力を暮らしに生かせないか、と探っている。

「家庭の生ゴミを減らす魔法の箱であるコンポストから電気をいただいて発電する実験を、電極を作る会社や大学の研究室と共同でやっています」 

自然写真家の夫とともに世界中の大自然を追いかけてきた雅美さんは、今、身近な家の中にある自然の営みに目を凝らす。

「これからは都市農業、アーバンファーミングもしていきたいです。いっしょにやりましょうよ。無理せずコツコツ、ね?」


写真家の夫がDIYしたベランダで、ハーブや野菜を育てている。一部のプランターも夫による手作り! 海外の都市菜園を見学したり、微生物を生かした農法などを実験しながら菜園づくりを実践中。
「アーバンファーマーならぬ、オーバン(おばさん)ファーマーですね(笑)」と雅美さん。楽しみながら植物との交流を深めていきたいという。

〜私を支えるもの〜


幼い頃に亡くした母の片身の洋服などのハギレで作った熊のぬいぐるみ。
「娘が生まれる時に作りました。『トラベアー』と名付けて(トラベルと掛けて)、母の代わりにいろんなところに連れていって、旅先で写真を撮っています。
母と旅しているような気持ちになるんです」


「ハグ療法ってありますけど、一瞬で幸せになれますよね。心身に効きます」と、娘の夏子さんとハグ。


愛読書『家庭でできる自然療法 誰でもできる食事と手当法』(あなたと健康社)の中で、雅美さんの心にとくに響いたのが、「うつ」という項目に書いてあった「人混みの散歩」。
夜の散歩も心身を整える日々の習慣に。


自作の新聞バッグも生活の一部に。
「角をぴったり合わせて折るなど、ていねいに無心で作業すると、とても心が落ち着きます」。
ゴミを削減する中で、なかなか減らなかったのが野菜を入れるビニール袋。そこで新聞バッグを作り、野菜の生産者に渡しはじめたのだそう。

聞き手:石田紀佳さん
手仕事と自然にかかわる人の営みを探求するキュレーター。朝日カルチャーセンターなどで季節に沿った手仕事講座を開催。シモキタ園藝部が運営するハーブティーの店「ちゃや」にも携わる。

撮影/白井裕介 聞き手・文/石田紀佳 編集/鈴木香里

※大人のおしゃれ手帖2024年10月号から抜粋
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