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●こだわりの酒屋とそこからお酒を仕入れる飲食店、2つの視点から紐解くお酒、料理の魅力に迫ります

 川崎においしいお酒を扱う酒屋があります。蔵元の情熱とこだわりを深く理解し、酒一滴一滴に込められた物語を感じ取る。味と風味を熟知し、来店する地元の人や飲食店の好みに合わせたお酒を提供する酒屋、『地酒や たけくま酒店』。川崎の日本酒を扱う飲食店界隈では有名な、こだわりの酒屋です。

“こだわりの酒屋はおいしいお酒を知っている、おいしい飲食店はこだわりの酒屋からお酒を仕入れているはず”という仮説から『地酒や たけくま酒店』の2号店となる元住吉店店長・佐藤温志さんに相談して実現した、地域に根付いた酒屋と飲食店のおいしい関係を発掘する本企画。

 第3回は佐藤さんと、東急東横線大倉山駅より徒歩3分、旬と鮮度を大事にし漁港直送の鮮魚や旬の野菜を用いた和食創作料理が地元で評判の『飲み喰い道楽 男魚魚(おっとっと)』からお届けします。

 紹介するお酒は日本酒「國権 特別純米酒 夢の香」(国権酒造株式会社)。福島県南会津に蔵元があります。

様々な日本酒を飲み比べたどり着いた「國権 特別純米酒 夢の香」


「國権 特別純米酒 夢の香」とお出汁を合わせたい

 大倉山で開店40年を迎える『飲み喰い道楽 男魚魚(おっとっと)』。現店主・川井駿吾さんの両親が始めたお店で、川井さんがお店に入ったのは13年ほど前。

「店名からもわかる通り、お魚が中心のお店です。千葉県の南房総からお魚を取り寄せていて、市場からではなく漁港から直接取引しているのが売りです。前は市場から仕入れていたんですけど、漁港から直接仕入れだと鮮度が全然違うんです」(川井さん)

 現在は日本酒の種類も多くラインナップにこだわっているが、十年程前はよくある銘柄が数種類置いてある程度だったそう。

 佐藤さんと川井さんの交流が生まれたのは元住吉店ができてから。その頃、川井さんは梅酒や果実酒に力を入れていました。すると女性のお客様の注文数が増え、お酒を揃えると飲んでいただける楽しさを知ったと言います。

 その頃の日本酒ブームもあり、日本酒も揃えるようになったそうです。そこから川井さんの日本酒探しがはじまります。

 当時、日本酒に詳しくない川井さんは『地酒や たけくま酒店 元住吉店』を訪れ、佐藤さんを頼ります。


左:佐藤さん 右:川井さん

川井さん:日本酒を探している時は、勉強も兼ねて佐藤さんと会話しながら、とにかく色んな日本酒を飲んでいました。佐藤さんは味わいだけでなく、蔵の背景や小ネタを話してくれるんです。蔵元のこだわりとか、仕込み水の話だったり、お米の話だったり、そういう話を聞くと買っちゃうんですよ笑。佐藤さんと話すと、そのお酒が美味しそうに思えます。そして聞いた話を今度はお店のお客さんに話をすると喜んでくれて。

佐藤さん:味は飲めばそれぞれ感想が持てますから。それよりもこんな環境に蔵があるとか、飲むシーンや合う温度帯、味わいの周辺にある情報を伝えた方が面白いと思うんです。知っている限りはそれを伝えたい。

川井さん:そういう流れで「國権 特別純米酒 夢の香」と出会ったんです。華やかな香りがあるものや、コクのある力強いもの、色んなタイプの日本酒を飲んだ結果、自分はやわらかで優しい、ずっと飲み続けられるようなお酒が好きなんだなって気づきました。それが「國権 特別純米酒 夢の香」だったんです。

佐藤さん:駿吾さんは料理人だから、食中を意識している人の考え方かもしれないです。お酒単体のインパクトって確かにあるんです。香りが華やかとかちょっと甘めだと、美味しい!って。
 第一印象が良いのはすごく大事なことなんですけど、おかわりして飲み続けられるか?というと必ずしもそういうわけでもない。お味噌汁みたいに、食べては飲んで食べては飲んでと飲み進められるお酒って真っ当だと思うんですよ。
 まさに「國権 特別純米酒 夢の香」はそういうお酒ですよね。情報を追うと派手で勢いのあるお酒が目に入ってしまいますが、自分の好みやシーンに合わせて、このお酒が合うって辿り着いてもらったのは酒屋冥利に尽きるというか、お酒も嬉しいでしょう。僕の周りの酒飲みは、この酒を重宝している人が多いです。

「國権 特別純米酒 夢の香」の魅力を料理と共に知ってほしい


「ラベルもかわいいんですよ」川井さん ラベルにまつわる話も出ましたがそれはまた別な話

「『國権 特別純米酒 夢の香』の仕込み水は柔らかいので口当たりが良いです。高い温度帯にも耐えられるので食事の温度にも合わせてくれるお酒です。温かい料理なら温かいお酒がいいし、冷たい料理ならば常温でもいいですし。燗をつけるなら55℃。はじめに熱めにつけて、食事が進むにつれ温度が下がりながら味わいの変化を楽しめます」と佐藤さんが言うと、

「佐藤さんの言う通り最初のインパクトは控えめだけれど、『道楽まんじゅう』のお出汁と合わせて飲んでいただくと味わいが変わったり、また別な料理と合わせるとまた違った味わいを感じられて楽しいんですよね。そのことをお客様に伝えて、喜んでいただいた時に『よし!!』みたいな気分になります」と川井さん。

 実食させていただきます。


「道楽まんじゅう」

「道楽まんじゅう」は創業から40年間変わらず、今でも一番人気の看板メニュー。じゃがいもと魚のすり身で作られた生地に丁寧に取られたお出汁と共に提供される。まんじゅうの中には大ぶりのエビ、椎茸、銀杏、枝豆が入っており、一口ごとにどの具材を食べられるかワクワクする。「國権 特別純米酒 夢の香」を合わせる。お出汁と合わせていただきたい、という川井さんの意図を理解した瞬間。


季節の食材を取り入れた「てづくりおばんざいの盛り合わせ」。この日は一番上から「かつおの佃煮」「冷やしトマト」「青柚味噌きゅうり」「炙り鴨肉とポテトサラダ」

 色んな料理と「國権 特別純米酒 夢の香」を合わせて欲しいという川井さんの心意気が伝わる一皿。おばんざいを一口、「國権 特別純米酒 夢の香」を一口、それぞれ繰り返す、おいしい幸せエンドレス。手作りの柚子味噌が爽やかさを演出。そしてまたエンドレス。

コロナ禍での変化と、お店と日本酒の今後


カフェメニューの一部

 コロナ禍でお酒を提供できなくなった時期、カフェ営業を始めた川井さん。主力商品はこだわりを詰め込んだ「あんバタートースト」と「ハンドドリップコーヒー」。お客様がインスタにアップした「あんバタートースト」が話題になり、それを見た別のお客様が来店するなど、若い方や地元の主婦層の方の来店が徐々に増えていったそうです。


宮大工作りの店内

川井さん:お店の内装は宮大工造りで、釘を使わず作っています。両親と親交のある宮大工さんが作ってくれて、本当に丈夫で今まで改装もせずにきているんです。そんなお店に20代前半の若いお客様が入った時の第一声が「かわいい!」だったりして、かわいいんだ!!って驚いてます 笑。

佐藤さん:レトロ感とかアンティークに反応する感覚なんじゃないですか?

川井さん:お昼がきっかけで夜も来てくれるお客さんがすごい増えているので、辛かったコロナ禍にカフェ営業を始めて良かったと思っています。

佐藤さん:お店の魅力はもちろん、大倉山という街の特徴もあるでしょう。お店の方はもちろん、お客さま同士が繋がっている印象があります。

川井さん:コロナ禍で他のお店とのつながりができたんです。それまで、挨拶はする程度。カフェ営業をはじめてすごい繋がりができたんです。暇になっちゃったから「みんなで賄いを食べよう」みたいな企画を2店舗から始めたんですけど、最終的には10数店舗までになって。それが今もつながっているのでイベント企画して盛り上げたり。お客様も色んなんお店を廻ってくれて。


佐藤さんがここで無茶ブリします。「これからどうします?お店と日本酒を」

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川井さん:今まで色々試してきて、伝えたいことはシンプルにお出汁と日本酒を合わせて欲しいということ。これは自分の中でしっくり来ているので、ブレずにコツコツ伝えていくことなのかなと。
 コロナ禍で「コーヒー」を始めた時に、こだわりの「コーヒー」を全面に押し出したんです。でも、いくらこだわりを伝えても、外からの見え方は所詮居酒屋が始めた「コーヒー」で。僕が外を歩いている人だったとしても飲みたいとは思わなかったです。
 どうしようと思った時に、和のお店にもマッチする「あんバタートースト」を看板メニューにしようと思い、切り替えたら「あんバタートースト」のオーダーが増えて。そうすると相乗効果で「コーヒー」のオーダーも増えるという流れができて。
 日本酒も同じで美味しいお出汁のお料理にそっと日本酒を添える。という方が自然でいいのかなと学びました。

佐藤さん:蕎麦、いいんじゃないですか?

川井さん:蕎麦ですか?

佐藤さん:國権のある南会津は蕎麦の里なんです。豪雪地帯で土地が肥沃じゃないんですよ。最近は温暖化で「國権 特別純米酒 夢の香」の酒米「夢の香」も作れるようになってますけど、元々、米は作れない土地だったんです。痩せた土地でも蕎麦は栽培できるので、文化的には蕎麦の里なんですよ。國権と合わせるにはもってこいです。

川井さん:蕎麦いいですね〜

佐藤さん:修行行きますか

川井さん:南会津で

佐藤さん:蕎麦ランチに、夜は蕎麦前(蕎麦を食べる前にお酒を飲むこと)セットを作って…。まぁ、蕎麦は打たないにせよ笑、南会津から蕎麦粉とか蕎麦の実を取り寄せるとかでもいいですし。蕎麦粉でガレットとかお好み焼きとか、蕎麦の実はかき揚げでもポテサラのアクセントにもなりますよね。お酒と蕎麦、地域の文化をお店に集めて。ガレットなんて、男魚魚さんっぽい。

川井さん:ストーリー的には完璧ですね!ひとつ展望ができました!でもこれから修行は体力的にしんどいな〜笑。

まとめ

『地酒や たけくま酒店』と『飲み喰い道楽 男魚魚』のおいしい関係、いかがでしたでしょうか。引き続き、地域に根付いた酒屋と飲食店のおいしい関係を追いかけます。
次回はどんなお酒とどんな飲食店が登場するか?お楽しみに。

*みなさんの好きなお酒の銘柄を教えてください。好きなお酒の思い出、エピソードなどもあると思います。是非、『好きなお酒の銘柄』を下記のフォームにお寄せください。
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無くなり次第終了!「國権 特別純米酒 夢の香」一杯サービス企画

『飲み喰い道楽 男魚魚』のご協力のもと、お店で「食楽webのinstagram」をフォロー、フォローしている画面を見せると「國権 特別純米酒 夢の香」一杯サービス!

 無くなり次第終了です!

●SHOP INFO
飲み喰い道楽 男魚魚

住:神奈川県横浜市港北区大倉山1-18-26
営:昼12:00〜15:00 (14:00 L.O)、夜17:00〜22:00
定休日:月曜
https://www.instagram.com/ottotto1984_ookurayama/
*営業時間などは店舗SNSでご確認ください

●SHOP INFO

地酒や たけくま酒店

本店
住:神奈川県川崎市幸区紺屋町92
TEL:044-522-0022
元住吉店
住:神奈川県川崎市中原区木月3丁目10-17
TEL:044789-5561
オンラインストア

(企画・取材◎ヨネダ商店)