イタリアブランドの強みを再認識させた2025春夏ミラノ・ファッション・ウィーク

マリ・クレール編集長、田居克人が月に1回、読者にお届けするメッセージ。デザイナー交代といった目立った話題のなかったミラノ・ファッション・ウィークだったが、
各ブランドは、それぞれの原点や強みを打ち出すコレクションを発表した。

2025春夏ミラノ・ファッション・ウィーク・ウィメンズは9月17日から23日まで開催されました。期間中、65のショー(デジタルでの発表は8)、75の展示会、33のイベントがありました。

この時期のミラノとしては珍しく暑い日が続く中でのコレクション。例年だと期間中に急に秋へと季節が変わる日があり、慌ててセーターを着るのですが、温暖化の影響でしょうか、今回はそんなことはありませんでした。

コレクションで特に目立ったのは、レースやオーガンジーといった様々な透ける素材のドレスを素肌に纏い、あえて下着を見せる軽いエアリーなスタイルや、色違いの透ける素材の重ね着でした。また、テーラードスーツやトレンチコートといった定番のアイテムにやさしい色を使ったフェミニンなアイテムの組み合わせもいくつかのコレクションで見られました。

ミラノの後に開催されるパリ・ファッション・ウィークではビッグメゾンのデザイナーの交代劇や退任などがあり、そのあたりへの興味が高まっているのですが、ミラノでは「ジョルジオ アルマーニ」がコレクションを開催せず、10月にニューヨークで開催するのを決めたこと以外、特に目立った動きはありませんでした。

今回の取材はコレクション期間の途中からの取材でしたが、開催順に気になったコレクションについての印象を紹介します。

まず9月19日の朝に開催された「Max Mara」。昨年秋に本社を訪問し、クリエイティブ・ディレクターのイアン・グリフィスとも久しぶりにお会いしました。今回のコレクションは彼のまじめで知的な学者のようなたたずまいが、特に強く反映されていると感じました。装飾を極力抑え、カラーもワントーンで、素材で変化をつけるという、無駄がなく知的でクールなコレクション。とても気持ちの良いショーでした。


「Max Mara」

同日の午後一番は「PRADA」のショーがミラノ郊外のプラダ財団内で開催されました。ミウッチャ・プラダとラフ・シモンズが組んで5回目となる春夏コレクション。テーマは「INFINITE PRESENT」(無限の現在)。「有限のプログラムで構成された情報社会と、それに対する無限の選択肢」にフォーカスするというものです。彼らの自信にあふれたコレクションであるというのはショーが始まってすぐに感じることができました。「PRADA」の基本的な部分は変えず、それを今風にみせるというアプローチがその表れだと思います。「アルゴリズムへの懐疑的な姿勢を示すコレクション」とリリースにはありましたが、周りに流されず、着たいものを着るという意思表示が強く込められたショーでした。


「PRADA」

翌日の朝開催されたのは「TOD’S」。テーマは「職人の知性」。会場には60人の職人が長いテーブルを前にアイコニックシューズ「ゴンミーニ」を製作している姿が。またランウェイには白い大きな手の彫刻を配置してあり、職人による手仕事を重要視している姿勢が感じられました。クリエイティブ・ディレクターのマッテオ・タンブリーニは、今回が2回目のコレクションですが、カジュアルでミニマルなルックとレザーでのクラフツマンシップからは職人に対するリスペクトが強く感じられ、「TOD’S」の方向性が大いに感じられたコレクションでした。


Courtesy of TOD’S

午後は「GUCCI」のコレクションがメンズ・コレクションの発表の場と同じ「ミラノ・トリエンナーレ・デザイン・ミュージアム」で開催されました。この場所との関係を発展させ、ブランドのアイデンティティと美術館が体現する価値観をより強固に結びつけるという狙いからです。会場前には招待されたセレブリティを見るために大勢の人が集まり大変な騒ぎ。「BTS」のジンや「NewJeans」のハニなどK-POPのアイドルたちが現れるたびに大歓声が上がります。このような光景は以前、あまり見かけませんでしたが、数年前からは多くのショー会場では当たり前の光景になりました。「GUCCI」の創設者、グッチオ・グッチはポーターとしてロンドンの「The Savoy Hotel」で働いていましたが、そのホテルのエレベーターの壁からインスピレーションを得た深みのある赤、“ロッソ アンコーラ”が象徴的にランウェイやコレクションのルックにも使われていました。前シーズンよりは抑えめのトーンの中でどこまで装飾性を取り入れるか、ミニマルなラインの中でのエレガンスの表現がルックの中心でした。またアイコニックなホースビット柄のワンピースや帽子、大型のサングラスなど1960年代をイメージさせるレトロムードも漂い、素肌を透かして見せるシアーな総レースのスリップなど官能性にもあふれたコレクションは、「GUCCI」の考えるクワイエット・ラグジュアリーなのだと思います。


Courtesy of Gucci

21日に開催された「FERRAGAMO」のコレクションのインスピレーション源はバレエシューズ。練習着のような装いにトレンチコートを羽織り、大きなバッグを肩にかけるルックはまさにバレエダンサーが登場してきたよう。多くのバレエダンサーにバレエシューズを提供していたという歴史からヒントを得たショーは、フェティッシュなムードとともに新たな魅力を「FERRAGAMO」に付け加えたと言えるでしょう。


「FERRAGAMO」

21日の夜は「Bottega Veneta」のコレクションが開催されました。コンセプトは「子ども時代」。会場には普通の椅子とは異なり皮革でできた縫いぐるみのようなビーズチェア「サッコ」が招待客のために配置され、いつもとは違う雰囲気。極端にオーバーサイズのコートやシャツなど、子どもが思うがままに選んだ感じの装いに、Bottegaの誇るクラフツマンシップによる手の込んだ作りの職人技のバッグとシューズが組み合わされていました。


「Bottega Veneta」

コレクション期間中には多くのバッグブランドやシューズブランドが展示会を開催します。日本に進出が決まった160年の歴史を持つミラノの王室御用達バッグ「FRANZI」は「Grand Hotel et de Milan」でパーティと展示会を、「Valextra」は新作バッグを「MANZONI 24」のフラッグシップショップで、また靴の「Gianvito Rossi」も歴史的な館で展示会を開催しました。

今回のコレクションで強く感じたのは、多くのブランドがブレずに自分たちの持つ歴史や職人技に焦点を当てたコレクションを発表したということです。またそれがイタリアのブランドの強みだということを、見る側の私たちに再認識させてくれたと思います。

2024年10月31日