ヨーロッパ文化遺産の日に堪能する、バレンシアガの特別な展覧会

毎年9月の第3土曜日・日曜日にヨーロッパ各地で開催される「ヨーロッパ文化遺産の日」は、普段は入ることのできない歴史的建造物などが多数無料で公開される催しだ。その中心地であるフランス・パリでは、年に1度のこの機会を楽しみにする人が多く、人気のプログラムはすぐに予約でいっぱいになるほど。ケリングの本社であり、400年近い歴史を持つ文化的なランドマークにて「ヨーロッパ文化遺産の日」の一環として開催されたバレンシアガの特別な展覧会は、貴重なコレクションの数々を堪能できる、またとない機会だった。

パリ左岸のボン・マルシェ百貨店からもほど近い、セーブル通り40番地に位置するケリング本社。門をくぐると、どこか清らかで、静寂に包まれた空間が広がる。もともとは1634年に貧しい人のために建てられた「不治の病の病院」で、19世紀から2000年までの間は、ラエネック病院として多くの結核患者を診療してきた歴史を持つ。ケリングは、すばらしい建築様式と豊かな歴史に魅了され、大規模な改修工事を行い、2016年からこの歴史的建造物に本社を構えている。


「The Subtleties of a Dialogue」の会場となったケリング本社

ケリングが2016年以来参加する「ヨーロッパ文化遺産の日」は、その歴史的建造物を目の当たりにし、グループに属するメゾンを探求することのできる貴重な機会だ。施設内にあるクロワ・エスト礼拝堂を会場に2日間限定で一般公開されたバレンシアガのオリジナル展覧会「The Subtleties of a Dialogue」では、初代デザイナーであり「クチュール界の建築家」と呼ばれたクリストバル・バレンシアガ(1895年~1972年)と、気鋭のアーティスティック・ディレクターとして2015年からメゾンを率いるデムナの、合計59作品が展示された。<襟><袖><黒という色><ウエスト><コクーンシルエット><時代を超えた対話>という、あえて細部に焦点を当てた6つのテーマで、2人の作品を対比的に見せた。歩を進めながら出会ったのは、明白な、あるいは意外な2人の「対話」だ。

<襟>
襟はスタイルを装飾したり、全体的なシルエットを決定づけたりするうえで重要な要素の一つ。クリストバル・バレンシアガはネックラインを囲む、ボリュームのある華やかな襟(写真右)を生み出したのに対し、デムナはバレンシアガのデザインを再解釈し、黒のシルクで作り出した絶妙なバランスのひだで前衛的な作品(写真左)に仕上げた。


「The Subtleties of a Dialogue」展示会場にて


上の両作品の全体シルエット。左はBalenciaga提供、右は©︎Marikel Lahana

<袖>
アーム部分を切り取るかのように2人の作品が展示された。クリストバル・バレンシアガの作品に見られる特徴的な7分丈の寸法は、デムナの作品にもインスピレーションを与えていることがわかる。長さだけでなく、幅、アームホールの高さ、直線または曲線の形状、肩と手首の処理など、すべての要素の完璧な組み合わせにより、美しいシルエットが生み出されている。


「The Subtleties of a Dialogue」展示会場にて。左のマスタード色、右の水色の作品はクリストバル・バレンシアガによるもの。中央のオレンジの作品はデムナによるもの

<黒という色>
「黒」はクリストバル・バレンシアガが子供時代を過ごしたスペイン・バスク地方の伝統的な衣装に用いられた色。控えめでありながら豪華でもあるこの黒の単色使いは、メゾンの歴史において度々採用されてきた。会場中央に現れた円柱状の構造物のすき間を覗き込むと、繊細なモノトーンの衣装の数々が現れた。


「The Subtleties of a Dialogue」展示会場に現れた円柱状の構造物


円柱状の構造物の中に並べられたアーカイブの数々

<ウエスト>
1950年にクリストバル・バレンシアガが発表したウエストが絞られたスーツ(写真右)は、後に数々のブランドが採用することになる、先進的なデザインとして世に受け入れられた。自身にとって最初のコレクションの一つとして2016年にデムナが最初に発表したスーツ(写真中央)には、より強調されたウエストラインが見られる。


「The Subtleties of a Dialogue」展示会場にて

<コクーンシルエット>
1940年代後半のクリストバル・バレンシアガの作品に見られる背中にボリュームのあるシルエットにデムナも共鳴し、近年の作品に反映している。作品が醸すモダンな雰囲気は、デムナの創造性の賜物だ。


「The Subtleties of a Dialogue」展示会場にて

<時代を超えた対話>
2人のデザイナーに共通するのは、慣習を打ち破ろうとする実験的な試みだ。そうした共通点がありつつも、単なる「再解釈」という言葉では表現しきれないデムナの大胆さや一種の挑発的な姿勢が、両者の作品の対比から感じ取ることができる。


「The Subtleties of a Dialogue」展示会場にて。左がクリストバル・バレンシアガの、右がデムナの作品。


「The Subtleties of a Dialogue」展示会場にて。左がクリストバル・バレンシアガの、右がデムナの作品。

バレンシアガの特徴的な美学と豊かな創造性、それらを支える技術的卓越性を、余すことなく見ることのできるユニークな展示会だった。

text: Shunya Namba @Paris Office

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