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パブ文化が普及するイギリスでは、ビールなどアルコール飲料が社交の重要なツールだ。そのイギリスを中心に、欧州で日本酒の人気が急速に高まっている。日本国内では若者の日本酒離れが指摘されるなか、現地ではむしろ若者の関心を集めているようだ。ヘルシー志向の日本食が普及したことで食事にマッチしやすくなったことなどが背景にある。
◆日本酒の輸出が急増
日本から世界への輸出数量は着実に増加している。財務省貿易統計によれば、2014年に1万6314万キロリットルだった輸出数量は、2023年には2万9196万キロリットルとほぼ倍増した。2022年には3万5894万キロリットルとピークを記録。2024年も1〜9月の輸出数量が前年同期比4.9%増と好調だ。
イギリスでは、英紙ガーディアンによると、同国の高級ワイン商として知られるベリー・ブラザーズ&ラッドでは、日本酒の販売額が過去1年間で、それ以前の3年間の合計額の2倍に達したという。
一般的なスーパーでも販売されており、手軽に入手しやすい。ガーディアンによると、英スーパーマーケットチェーンのウェイトローズでは、自社サイトでの検索数が前年比241%増加した。セインズベリーやアズダなどほかの大手チェーンも日本酒の扱いを始めているという。
◆現地で増える日本酒バー…醸造所もオープン
ブームの立役者の一つが、2019年にロンドンのウエストエンドにオープンしたイギリス初の独立系日本酒バー「Mai Sake」だ。オーナーのエリカ・ヘイグ氏は、開店当初は日本酒を知らない客が多かったが、現在では混乱がほぼなくなったとガーディアン紙に語る。ロンドン市内では同店以外の店舗も続々とオープンし、日本酒バーを巡る「バー・ホッピング」ができるほどになった。
日本酒の醸造所も設立されている。ライフスタイル誌エスクァイア(10月11日)は、イギリス初の日本酒醸造所「Kanpai」の成功を報じている。Kanpaiは今から7年前、ロンドン南東部に位置するペッカムの小さな倉庫で、夫婦経営のささやかな醸造所としてスタートした。わずか数ヶ月でクラウドファンディングを成功させ、高級百貨店セルフリッジズでクラフト日本酒を販売するまでに至っている。Kanpaiの成功を含め、エスクァイア誌は、「業界は急成長している。日本酒の世界で大きな波が起きているのだ」と述べる。
◆ソムリエから若者までが関心を向ける
日本酒の人気を牽引(けんいん)している要因は多岐にわたる。
まず、ソムリエやシェフによる日本酒の評価が向上している点が挙げられる。エスクァイア誌によると、イギリスの三つ星レストラン「ファット・ダック」では、主任ソムリエのメラニア・ベレシーニ氏が、日本酒を取り入れたフル・ペアリング・メニューを開発した。ベレシーニ氏は日本酒について、「料理と一体となり、風味のプロファイルを引き立てるうまみの特性」が備わると絶賛している。
多様な日本酒は、食事ともマッチしやすい。ガーディアンによれば、高級ワイン商ベリー・ブラザーズ&ラッドのロブ・ホワイトヘッド氏は、「日本酒は最も食事に合わせやすい飲み物の一つ」だと述べている。冷やして白ワイン感覚で楽しむフレッシュでフルーティーな日本酒から、室温に近い温度で楽しむうまみの濃厚な日本酒まで、さまざまなスタイルで楽しまれている。
イギリスのドリンク業界専門誌『ドリンクス・ビジネス』は、特に若い世代が日本酒に興味を持っていると報じている。日本酒には亜硫酸塩が含まれておらず、スピリッツよりはアルコール度数が低い傾向にあるため、ヘルシー志向の若者に支持されているようだ。
日本酒は単なるトレンドを超えて、欧州の文化に根付き始めているのかもしれない。