誕生と歴史。パン聖人の名前を冠したスイーツ
フランスでも古くから愛されているサントノーレ。島田シェフによると、その名前の由来にはさまざまな説があるそう。
島田シェフ
「このスイーツは、パリのサントノーレ通りにあった菓子職人・シブーストの店で売られたのが始まりだといわれています。名前の由来は諸説ありますが、店があった通りの名前から名付けた、またはパンの守護聖人として知られるHonore(オノレ)とフランス語で聖人を表す“saint(サント)”の音がつながって“サントノーレ”になったというのが有力です。
Honoreはパンの聖人ですが、菓子店にも複数の種類があり、ブーランジェリー・パティスリーと呼ばれる店ではパンもケーキも作っているので、この名前を付けたのかもしれません。
クリームは、当初は『クレーム・シブースト』と呼ばれる温かいカスタードクリームにイタリアンメレンゲ*1を合わせたものが使われていました。クレーム・シブーストもシブーストが考えたものなので、このクリームをそのまま『クレーム・サントノーレ』と呼ぶこともあります。
ただ、クレーム・シブーストはカスタードクリームが冷めないうちにイタリアンメレンゲを混ぜなければいけないため扱いづらい面があります。そのため、現在ではカスタードクリームと生クリームを合わせたディプロマットクリームを土台に、上部にはシャンティ(生クリーム)も使うことが多いです。
生クリームを使うためクレーム・シブーストより軽やかな味わいになるほか、見た目が白く、茶色いカラメルとの色のコントラストが美しい点もメリットですね」
*1)イタリアンメレンゲ:卵白に砂糖と水を煮詰めたシロップを合わせて作るメレンゲ。メレンゲは3種類あり、イタリアンメレンゲのほか、卵白に砂糖だけを加えるフレンチメレンゲと、卵白と砂糖を加熱してから泡立てるスイスメレンゲが作られている。
日ごろから、チョコレートやケーキを味わうことが多いという松川さん。「見た目と食感のギャップに驚きました」と、その感想を話します。
松川さん
「シュークリームは小さなプリンのような見た目で、柔らかめの食感かな?と思っていました。でも、想像以上にしっかり、カリッとした歯ごたえにびっくり。中のクリームは甘すぎず、甘いカラメルとよく合うやさしい味わいを楽しめます」
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本場でも再度人気に。デザインや味の多様化も
サントノーレは、日常的に食べる機会は多くないスイーツ。しかし、あるパティシエをきっかけに、フランスで再び人気になっているのだそう。
島田シェフ
「フランスでは、大人気のパティシエであるセドリック・グロレをきっかけに再度注目を集めています。彼が作った巨大なサントノーレは、話題を呼びましたね。また、フランスが食感のコントラストやカリカリした歯ざわりを好む文化なのも、人気を得ている理由ではないでしょうか。
定番なのは白いクリームを生地に絞って飴でコーティングしたものですが、最近ではアレンジ版も多く登場しています。クリームをカラメル風味にしたり、チョコレートを使ったりといったものですね。うちの店では、春にピンク色のフォンダン*2をシュークリームにかけた『桜のサントノーレ』を作ったりもしています。
また、中央のデザインも多様化しています。クリームを絞る際に使う口金に『サントノーレ口金』という型があり、うちの店ではその口金を使って花柄のように絞っていますね。もともとは稲穂のようにV字型に絞ることが多かったのかもしれませんが、最近では別の口金を使ったり、ランダムに蛇行するようなデザインにしたりする店もあります。
日本はショートケーキのようなふわっとした生地を好む人が多いことや、高温多湿のためカラメルが溶けやすいことから販売する店が少ないのが現状です。しかしファンは多く、今も愛されているお菓子です」
*2)フォンダン:砂糖と水を煮詰めて作る、クリーム状の素材