「年間700食」袋麵を食べていた65歳男性を直撃。健康診断の結果や体重の変化も教えてもらった

飽食の時代、寿司・焼肉・カレー・スイーツなど、あらゆるものが好きな時に食べられる日本。そんな状況にあって、徹底的に同じものを食べる人も存在する。「即席麺評論家」である大山即席斎氏もその一人。仕事柄とはいえ、年間でインスタント麺を600食も口にするとの触れ込みがある同氏。健康問題は起きていないのか、太ることはないのか。本人を直撃した。

◆学生時代に出合った「高級袋麺」が人生を変えた

日々大量の袋麺を消費する大山即席斎氏。いつからハマったのか尋ねてみると、意外にも子供の頃はほとんど食べていなかったという。転機となったのは大学時代に出会ったある商品。

「大学2年の時に、『中華三昧』(明星食品)が発売されたんです。これは、他の商品の倍くらいの値段の高級袋麺で、ものすごく美味しくてハマりました。同時期に、他のメーカーも高級袋麺を出していました。例えば『マダムヤン』(ハウス食品)は、CMも話題になったので、私と同世代だとその印象が強いでしょうね。他にも、日清食品の『麺皇(めんふぁん)』や、東洋水産の『華味餐庁(かみさんちん)』など、どれも美味しかったです」

まさに、袋麺の歴史の変遷とともに本人の歴史が積み重なっている。当時、各メーカーが数多くの袋麺を発売し、市場は群雄割拠の様相を呈していた。

「高級袋麺目当てにスーパーなどに行くと、それ以外にも色々な袋麺がずらっと並んでいました。そこで、『全種類食べてみよう』という意欲が湧いて来たのがきっかけです。当時は1日1食くらいでしたから、年間350食といったところでしょうか」

◆「年間600食」の情報は本当なのか?

年間350食でも、かなり多いと感じるが、そこから600食という常人ならざる数字に至った背景には、あるテレビ番組の存在があった。

「大きく変わったのは、1995年に『TVチャンピオン』(テレビ東京系)の『インスタント麺通選手権』で優勝させてもらってからですね。周囲に『詳しい人』とみなされるようになったので、もっと食べてもっと詳しくならないといけないと思いました。そこから、1日2食をノルマとしたんです」

同氏をネットで検索すると、年間600食というキーワードが見られるが、実際はさらにその上の700食だったということになる。そうした生活が2019年ごろまで続いたという。

◆飽きない? 太らない? 体に悪くない?

これだけ毎日食べている人に対して、浮かぶ疑問といえばシンプルに「飽きないのか」ということ。

「まず、私にとって袋麺は主食なわけです。ご飯と味噌汁は飽きませんよね? ラーメンでいうと、麺がご飯でスープが味噌汁みたいなものです。しかも、味噌汁と違ってラーメンのスープは味噌だけでなく塩・醤油・豚骨などバリエーションが様々ですから、なおさらです」

理屈は理解できるが、だからと言って自分がそうした生活を飽きずに続けられるとは思えない。やはり、大山氏は袋麺に愛され袋麺を愛した男なのだ。

しかし、体に悪いイメージのある袋麺、これだけ食べていて太らないのだろうか。

「私は、大学時代からたくさん食べはじめました。同じものばかりを食べる人は、腸内細菌がその人用に変化するという説もあるんです。ですから、特に太ったりすることはありません。ただ、私が太ってしまうと業界のイメージを悪くしてしまうので、気をつけていた部分もあります。夜に2食がノルマだったんですが、昼は栄養のバランスを取るといった、自分のルールを決めていました」

また、健康診断の結果も、年齢によって血圧はやや上がったものの、同年代と大差ない状況なのだという。

◆「飲み会で目一杯食べられない」悩み

袋麺をこれほど食べても、飽きることもなく太りもしない、また、健康診断の結果も問題なし。ラーメンが好きであれば、メリットしかない生活ではないのか。

「デメリットと言えるものがあるとすれば、飲み会や食事会ですかね。美味しそうな料理が出て来ても、目一杯食べられないんですよ……。帰ってから袋麺2食のノルマがありますから。後ろ髪を引かれながら帰ることもよくありました(笑)」

しかし逆に、毎日袋麺を食べるメリットは「仕事に役立つ」以外にもあるのだとか。

「まず、献立を考えなくていいのが楽ですね。次に、安くつくということ。自炊って意外と高くなりますから。車やブランド品などを趣味にしている方はお金がかかりますが、私の場合はのめり込むほど、食費が安くなって生活が楽になります(笑)」

◆「マルちゃん正麺」は歴史の転換点

長年にわたり袋麺を食べ続けて来た大山氏。きっかけは、大学時代に食べた『中華三昧』だったが、その後、ターニングポイントになった袋麺はあるのだろうか。

「『マルちゃん正麺』(東洋水産)の登場は衝撃的でした。生麺に近い食感と味わいで、麺のおいしさが段違いでしたから」

大山氏が受けた衝撃は、世間も同様だったようで「マルちゃん正麺」はインスタント麺の歴史の転換点になっているのだという。

「カップ麺が登場してから、袋麺の需要はどんどん落ちました。そして、カップ麺が袋麺の消費量を追い抜いたのが平成元年(1989年)なんです。なので、大きく分けると、昭和は袋麺で平成はカップ麺ということですね。そこから、最大で『袋:カップ=1:2』くらいの販売比率になりました。

ところが、2011年に『マルちゃん正麺』が大ヒット。同時期に日清食品も『ラ王』の袋めんをリリースして、言うならば袋麺が反撃を始めた年ですね」

◆健康を損なう前に引退したいワケ

インスタント麺王の称号を手にしておよそ30年が経ち、大山氏も65歳。今後の展望についても語ってもらった。

「ちゃんと引退する。健康を損なう前に引退したいということです。ラーメンを専門にしていると、別の要因で健康を害しても、世間からはラーメンのせいにされてしまうんですよね。数年前、有名なラーメン評論家の方が亡くなりました。ラーメンと無関係な要因だったにも関わらず、ネット上では『やっぱりラーメンが悪い』という声ばかりですから、健康なうちに辞めようと思っています」

袋麺における歴史の生き証人といえる大山氏は、ラーメンの未来を見据えている。引退までは、袋麺の知られざる世界を私たちに伝えていってほしい。

<取材・文/Mr.tsubaking>

【Mr.tsubaking】

Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。