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●全国各地の知られざる名産品をイラストレーター・ワタナベマキコさんがイラストと共に紹介する企画。今回は熊本県のソウルフード「南関あげ」です。
先日、友人に熊本旅行に誘われました。20年以上日本を離れ海外暮らし、3年間、コロナで日本に帰れず久しぶりに帰国できた筆者に「ぜひ食べてほしいものがあるから、熊本に行こう」と声をかけてくれたのです。
「熊本は美食の宝庫、ぜひ一度食べてみてほしいものが熊本にある」と力説する友人。帰国後、日本の食に飢えていた筆者、そんな時ふってきた嬉しいお誘いに、これありがたやと二つ返事で「ぜひ連れてってほしい!」と即答したのです。
知らなかった!熊本県民のソウルフード「南関あげ」
そんなわけで、訪れたのは熊本県玉名郡にある南関町(なんかんまち)。南関インターチェンジを降りてしばらくクルマを走らせると、緑豊かな山あいに目的地の物産館『いきいき村』が見えてきます。駐車場はもう車でいっぱい。人気のほどがうかがえます。
この物産館、たいへん立派な建物で、館内は新鮮な野菜や魚介類、ご当地の名産品がずらり。多くの人でにぎわっているのも納得です。
そして広い売り場で最も目立っていたのが、山のように大量に積み上がった“おあげ”のコーナー。おあげだけで相当なエリアを占拠しています。そう、これが南関町の特産品「南関あげ」なのです。九州では当たり前に知られている、熊本県民のソウルフードなんだそう。
これまで生きてきて、南関あげの存在を全く知らなかった筆者、第一印象としては「ただの乾いた大きめの油揚げ?」。なんとなく普通のおあげさんの味を想像してしまいました。
反応の悪い筆者の手を取り、友人が「まぁ、まずは食べてみてよ」と併設するお食事処へ案内してくれます。いきいき村のすぐ隣にあるレストラン『いきいき』では、南関あげを中心に地元の特産品を使ったメニューが楽しめるのです。
広い店内は十分に席間があってゆったり。座席の窓から、緑あふれる里山の景色が望めて、ものすごく気持ちがいいです。ここで人生初の南関あげを食することに。百聞は一口にしかず!
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あまりの美味しさに思わず大量購入
注文した「南関あげ丼」は、たっぷりダシを染み込ませた南関あげと玉ねぎを卵でとじた一品。見た目は親子丼のようです。まずはひと口……普通の油揚げを想像しながら口に入れたら全然違って、頭がバグりかけました。
なんと不思議な食感! 見た目はダシのしみたやわらかいおあげなのに、噛むとザクッというかむぎゅっというか、形容しがたい歯ごたえがあるのです。楽しい食感に加え、ダシと大豆の旨味が噛めば噛むほどじゅわじゅわ染み出てくる。めちゃくちゃウマい! ひと口でまんまとトリコになってしまいました。けっこうなボリュームですが、なんてったって元がお豆腐なのでヘルシー。これは嬉しい。気づいたらぺろりと完食しちゃってました。
もう一品、別に注文したのが「かしわぶっかけうどん」。こちらはスポンジのようにたっぷりと旨みを吸った南関あげの汁でうどんを食べるような感覚の一杯。温泉卵のとろけた黄身とやさしい味付けのかしわ(鶏肉)と南関あげの汁があいまって、噛むほどに美味しさが増幅します。
セットについていたうどんもみそ汁もセルフで自由に食べられる総菜も、南関あげが一枚入っているだけで、もう全部美味しくなるのです……!
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いざ味わってみて、その実力のほどが分かると、物産館のおあげコーナーの充実っぷりにも納得。タンパク質でもあるし、こりゃダイエット中の若い女性や健康が気になりはじめた中高年層、食が細くなりがちなお年寄り……老若男女みんなにありがたい最強食材だなぁと。贈り物にも喜ばれること間違いなしだと強く思いました。
お腹はいっぱいだったけど、惣菜コーナーの一番人気商品も食べないわけにはいきません。せっかくなのでおいなりさんを買って、その場でいただくことに。おいなりさんといっても、今まで食べてきたおいなりさんとはまったく違います。まず見た目からして違います。棒状です。炊いた南関あげを海苔のようにして、ぐるりと酢飯を巻いてあるのです。
整列した棒状のおいなりさんにゴマやわさびがちょんとのっているのがなんとも可愛らしい。一本つまんで頬張ってみると、やっぱり不思議な食感。普通のおいなりさんとは一線を画しています。噛むとダシがじゅわっとあふれてごはんがつゆだく状態になるほど。ひと口でいかないと、手が汁まみれになるジューシーすぎるおいなりさん、控えめに言って最高です。あー美味しかった。次はぜひ巻きずしも食べてみたい。
すっかり南関あげのトリコになってしまった私、ものすごくかさばることも忘れて大量購入してしまいました。
何しろ、南関あげは豆製品なのに常温で3か月と保存期間が長いのがイイ。お土産としても贈り物としてもありがたいですよね。サイズも豊富ですが、帰宅後に試して特に便利だったのが最初から刻んである「きざみ」。
油抜きも不要なので、そのままみそ汁やうどんなどにひとつかみ加えるだけ。超お手軽なのに、汁ものが最高の出来になってしまいます。上品な和食の煮ものにはもちろん、ジャンクなカップ麺にも相性抜群で、毎日食べても飽きない。友人にドン引きされるほどたくさん購入して大正解でした。
おまけ:オススメの南関あげの食べ方
南関あげのイチオシの食べ方は、冷凍の鍋焼きうどんに南関あげをたっぷり入れてぐつぐつ煮込む一品。特にカレーうどんが最高で「カレーを吸った南関あげ」と「あげの旨味がしみ出たカレー汁」の美味しさは格別。ポイントは、これでもかってくらい南関あげをぶっこむこと。冷凍アルミ鍋うどんが100倍美味しくなるのでぜひやってみてほしいです。
今回の知らなかった名産品は「南関あげ」でした。うまいもの発見の旅熊本編はまだまだ続きます!
(撮影・文・イラスト◎ワタナベマキコ