最大の壁は「年収の壁」ではなく、家事に時間を費やす「時間制約の壁」

自公と国民民主との間で議論が進められる年収の壁問題も含めて、J-CASTニュースBiz編集部は、研究顧問として同調査を行い、雇用労働問題に詳しいワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに話を聞いた。

――今回の調査で、年収の壁・支援パッケージを利用している人がわずか14%、「103万円」や「130万円」の上限制限がある人でさえ25%という低い割合でした。支援パッケージのどこに問題点があるからだと思いますか。

川上敬太郎さん 年収の壁は確かに収入を抑制する要因の1つに違いありませんが、そもそもなぜ年収の壁を気にするのかという背景に目を向ける必要があると思います。

最も大きな壁は年収の壁ではなく、家事や育児、介護といった家周りの仕事に時間を費やさなければならないという「時間制約の壁」です。潜在的には多くの主婦・主夫層がフルタイムで働きたい希望を持っています。しかし、時間制約の壁があるからフルタイムで働けないのです。

まず時間制約の壁があって、その壁の中で働こうと考えると扶養枠を利用するメリットが大きいため、年収の壁を意識することになります。むしろ時間制約の壁があるなかで、収入上限目安があると答えた人の25%が年収の壁・支援強化パッケージを利用しているということは、一定の効果が出ているともいえるように感じます。

――なるほど。年収の壁自体がフルタイムで働くことを妨げる制約ではないわけですね。私個人は、フリーコメントでは、「いろんな上限がありややこしいので、もっとわかりやすくしてほしい」という意見が響きましたが、川上さんはどのコメントに注目しましたか?

川上敬太郎さん 「私は夫の会社の家族手当受給のため103万円以内にしています。そういう人も多いと思う。それがなければとっくに扶養など出ている」というストレートなコメントがとても印象に残りました。

いま国民民主党が公約に掲げている「103万円の壁」対策が注目を集めていますが、配偶者が勤める会社から支給される家族手当は、まさに103万円という年収上限の壁になっていると感じます。

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国民民主の施策は生活の助けになるが、年収の壁解消策ではない

――その国民民主の「手取り増」は、パートタイムに所得税が発生する課税ラインを「103万円」から「178万円」に引き上げようというものです。自公と国民民主の合意でこの案が成立したら、年収の壁問題は解決すると思いますか。

川上敬太郎さん 年収の壁は、その金額を超えないように抑えているから「壁」と表現されるのです。しかし、所得税がかかる103万円という給与収入の目安は、「壁」というよりは「底」です。103万円の底を178万円に引き上げれば減税となり、手取りを増やす効果が期待できます。

しかし、だからといって年収の壁を解決する施策にはなりえません。年収の壁は、103万円であれば先ほどのコメントにもあったような家族手当が該当します。それは各社個別の制度なので、それぞれの会社が手当のあり方を見直さない限り解消されません。

また、年収の壁・支援強化パッケージの対象になっている106万円や130万円など働き損が発生する壁は社会保険のほうになります。家族手当も社会保険も、所得税とは全く別の話です。

――しゅふJOB総研では、時給がもっと上がれば年収の壁が解決できるとして「時給相場の壁」を提案しましたね。ほかに解決策はないでしょうか。

川上敬太郎さん 時給相場の壁は、1500円を超えると6割の人が扶養枠を外すと回答した調査結果をもとにお示ししたものです。石破茂首相は2024年10月1日の就任会見で「2020年代までに最低賃金1500円を目指す」と述べているので、もしそれが実現すれば多くの人が年収の壁を気にせず働きやすくなると期待できます。

ただ、そもそも年収の壁は扶養枠という制度の問題です。長年人々の生活の中に組み込まれてきた扶養枠という制度をなくす施策をとらない限り、抜本的な解消とはならないと思います。