筆者はとある日系自動車メーカーのディーラーに4年間勤務していました。ディーラーにくるお客様は、必ずしも良いお客様という訳ではありません。中には「おいおいちょっと待てよ……」と思わず言ってしまいたくなるほど変わったお客様というのもいるのが事実です。今回は、ディーラー営業マン経験のある筆者が実際に担当した危ないお客様を紹介します。
◆出会いから怪しさ満点
筆者がディーラーに勤務していた10年ほど前から、インターネットからの見込み獲得というのが行われていました。当時はまだ少ないほうでしたが、カタログ請求であったり試乗の予約、商談の予約で来店というお客様が一定数いました。
当時若手営業マンだった筆者は基本的にインターネットからの顧客を優先的に回してもらっていたのですが、そこで対応したお客様のAさんが一風変わっていました。まず、自社の近隣店舗ですでに試乗をしていたという事実が発覚。
これについて電話で確認したところ「担当してくれた営業マンとソリが合わなかった」という回答でした。こういったことはよくある話だったので、上司と相談した結果来店してもらうことに。このとき応対していなかったらトラブルに巻き込まれなかったとも知らず……。
◆不可解な事故発生
Aさんに店舗に来てもらい、車を試乗してもらい商談はしましたが成約しませんでした。インターネット引き合いのお客様の成約率は高くはないので致し方ないと考えた2か月後、Aさんから電話がかかってきました。
「車がイタズラされてしまって壊れてしまったよ……。宇野さんから新車を買いたいんだけど、行って良いかな?」
チャンスとばかりに即商談をし、見事に契約をいただきました。下取り車になるAさんのイタズラされた車を出張査定したところ、外周をコインで傷つけられて給油口をバールでこじ開けられ異物を入れられてしまったとのこと。Aさんは気付かずエンジンをかけてしまって壊れてしまったという顛末でした。
今思うと明らかにおかしなことですが、事件として届けているということと車両保険金が頭金として入金されることが確定していたので、とくに気にすることもなく新車を納車。「長い付き合いになるから」と自動車保険も契約してもらっていました。
◆1年ほど経って疑念から確信へ
新車納車から1年ほど経ったある日、Aさんは実家のある関東地方のとある県に引っ越しすることに。「短い間だったけど世話になったね。ありがとう。整備は地元でしてもらうけど、保険はこれからも宇野さんにお願いするよ」と営業マンとしては嬉しい言葉をいただきました。これが後々の事件につながるとはまだ知らず。
Aさんが引っ越してから数か月後、車両情報等を引き継ぎした現地のディーラーの営業マンYさんから電話がかかってきました。
「Aさんの車がイタズラにあったようで、修理をしなければならなくなりました。自動車保険の内容、おうかがいできますか?」
Yさんに詳細を聞いたところ、車の外周をコインのようなもので傷つけられてしまったとのこと。Aさんは全塗装で修理をして欲しいと言っていたようです。そんなタイミングよく同じような事件に巻き込まれる、というのは考えにくく、Aさんが自分でやったのではないか、と思いました。
◆車両保険のために自分で壊していた?
つまり、車両保険を受け取るために自分で愛車を壊していたのです。ここでは詳しく話せませんが、車を買ってもらってから引っ越すまでの間、細かなトラブルが何回も起こっていたこともあり、疑いの念があったからです。
証拠があれば事件として通報することもできましたが証拠がなかったので内密にした事案でした。
もしかすると、皆さんが利用されているディーラーの店舗にも変わったお客様がいるかもしれません。くれぐれもトラブルを起こすような顧客にならないでくださいね。
<TEXT/宇野源一>
【宇野 源一】
埼玉県在住の兼業ライター。大学卒業後、大手日系自動車ディーラーに就職。その後、金融業界の業務・教育支援を行う会社に転職し、法人営業に従事しながら、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、AFP資格を取得。X(旧Twitter):@gengen801