チロルチョコに虫が入っていた――。
11月上旬の三連休最終日、X上のあるアカウントがこのような投稿をして話題となった。
これに、チロルチョコ株式会社は即座に対応。投稿者へのコンタクト、判明している事実の公表など粛々と進め、本人および家族から謝罪を受けるまでの一連の動きをX上でつぶさに報告したことで、あっという間に炎上を収束させ、称賛の声が集まっている。
投稿者は当初、商品を“2~3日前に購入した”としていたものの、チロルチョコ株式会社の報告によれば〈最近購入したという事実は誤認であること、ご自宅での保管状況がよくなかったことが確認とれました〉とのこと。
また、〈弊社としてはご家族とご本人様からお詫びのご連絡を頂いておりますので投稿主様へのコメントやお問い合わせはお控え頂けますと幸いです〉と注意を呼びかけている。
未成年でも「刑事事件としての捜査を受ける可能性がある」
騒動の発端となった投稿者は未成年と思われ、本件のような「子どもの不適切なSNS利用」に不安を抱えている保護者も少なくないかもしれない。
もし、虚偽のSNS投稿で企業の評判を下げるようなことをした場合、どのような罪に問われる可能性があるのだろうか。少年事件の対応も多い杉山大介弁護士は「名誉毀損が一番該当しやすいですが、今回のような投稿の場合は偽計業務妨害にも問われ得ると考えられます」とした上で、次のように続ける。
「本件は結果的に長期間、保管状況のよくない環境に置いていたために虫が発生したようですが、『チロルチョコに虫が入っていた』という事実や内容そのものには虚偽がありません。よって、犯罪における『故意』などの要件を当然に認定できるものではないと思います」
また、投稿者が未成年だったことについては、「成人と未成年において刑法の適用可否に区別はなく、14歳未満でなければ刑事事件としての捜査を受ける可能性があります」と説明する。
「もっとも、今回の投稿に刑法を適用しようとすると、主観面の評価も必要になってきます。よって“未成年ゆえの未熟さ”から、刑事責任を問われづらいという側面はあるかもしれません」(同前)
不適切投稿には「企業から損害賠償請求」のリスクも
刑事責任とは別の問題として、民事責任を問われ、企業から損害賠償請求される可能性もあるのだろうか。
「刑事責任と異なり、過失でも認められるという点で民事責任は生じやすいと言えます。
損害賠償請求をするには投稿者の特定が必要ですが、たとえば本件では投稿者と保護者が企業に連絡しているため特定は可能になっており、企業側がやろうと思えばできるでしょう」(杉山弁護士)
未成年が責任を負うかは「民法712条における事理弁識能力によって判断される」という。
「ただし、この条文には『何歳だったら責任能力を認める』と形式的な規定がされているのではなく、その事案の実質を踏まえて個別に考えられることになり、12歳前後でも評価が分かれています。そのため、未成年自身に関しては、刑事と比べて民事の責任が生じやすいとは言い難いです。
しかし、未成年に責任能力がないとされた場合でも、民法714条によって保護者に責任が生じ得るため、やはり民事上の責任は家族としては問われやすいと言えます」(同前)
SNS「未成年が使いこなせるものではなくなっている」
SNS投稿による思わぬトラブルを避けるべく、未成年の子どもを持つ保護者へ、杉山弁護士は次のようにアドバイスする。
「今回の騒動では企業側も穏当な対応をしており、まだささやかで済んだ方とも言えます。
しかしSNSは、ちょっと操作するだけで未成年売春や淫行、薬物の売買、直近の話題だと闇バイトにもアクセス可能なツールです。実際に、そのような行為も日常的に行われています。
この現代社会でSNSなしに暮らすハードルが高いのは理解していますが、未成年が使いこなせるものではなくなっていることも確かなのだとは、まず理解してほしいです」